22話 孤高とは、そういうものだ。


 22話 孤高とは、そういうものだ。


「誰かの悪口を言いふらすってのは、基本的には、マイナスに属する行動だからな。けど、今回に限っていうと、あんたには何の落ち度もない。俺が望み、強制した面倒なミッションを、あんたは忠実に守ってくれた。心から感謝している。だから、気にしないでくれ」


「いえ、まったく気にはしておりません」


 まっすぐな目でそう言い放った彼女に、

 センは、苦笑いを浮かべ、


「いや、うん、別にいいんだけど……たぶん、おそらく、ちょっとぐらいは気にしている風を見せておいた方が、あんたの好感度があがると思うよ? 実際にどう思っているかはともかく、人前では、気にしている『体(てい)』を取っておいた方が、いろいろと有利に働くというのが世の常なんでね」


 と、軽口をはさんでいくセンに、

 アルキは、どこまでもまっすぐな目をしたまま、


「正直な話、自分の中に、ここまで『狡猾な部分』があったということに驚いております」


 その発言を受けて、

 センは、彼女が、

 『口では気にしていないといいながら、本当は、かなり気にしているのだろう』

 と認識したため、


「いやいや、狡猾って……俺に頼まれて、俺の悪口を言っただけだろ? あんたは仕事をしただけで、悪いことは何もしていないじゃねぇか。あの、本当に、気に病まないでもらった方が、俺的にも助かるんだけど……」


「いいえ、それは違います」


「……違う? いや、何も違わないんだが……俺、頼んだよね? 悪口を言ってくださいって。そうじゃないと、経験値にボーナスが入らないからって」


 そんなセンの、不器用な行動に対し、

 アルキは、頑として、


「今回の件において、わたくしは、わたくしの感情を暴走させただけです。彼女たちに、あなたの悪口を吹き込んで、彼女たちの心が、あなたから遠ざかるようにした――つまり、わたくしは、あなたの願いを叶えたのではなく、醜い私利私欲を満たしただけ。自分の欲望のために、大事な人を陰口で貶めた。それも、まったく躊躇することなく。そして、そのことを、わずかも恥じていない。どころか、ミッションを完璧に遂行できたことを誇りにすら思っている」


 ド正面から切り込む女の顔で、

 アルキは、センをまっすぐに見つめて、


「これで、あなたを独り占めできる。今のわたくしの心を占めている感情は、それだけです」


 欲望に溶けた顔を見せる悪女に、

 センは、ほんの数秒だけ、言葉を整える間を置いてから、


「……残念ながら、それはできねぇよ。なぜなら、俺はすでに、俺が独り占めしているから、孤高というのはそういうものだ」


 彼女に対するハッキリとした態度を示したセン。

 しかし、覚悟の決まった悪女に、

 童貞の『しょっぱい受け流し』など通じるはずもなし。


 アルキは、前回と同じで、

 己の高ぶりに身を任せる。


「ご安心を、セン様。あなたのすさんでしまった心を、私が、必ず、溶かしてさしあげます。他の誰も必要ない。わたくしと、あなただけが世界の中心。混ざり合って、溶けあって、そして……自由になりましょう」

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