12話 どっちもどっち。


 12話 どっちもどっち。


(正気か、この女! あんだけ、濃厚なファントムトークをくらっておいて、オールスルーとか、どんだけ……)


 羽金の対応に、全力でドン引くセン。


 あまりに引きすぎて、答えを返せずにいると、


 隣の才藤さんが、

 そこで、グっと丹田に力を込め、


「いやぁ、どうっすかねぇ……うーん……ぼくちゃんには、ヒマと退屈という大親友がいるので、放課後に時間が有ると言えばウソになりうる可能性が無きにしもあらずと――」


「そう。じゃあ、放課後、第ゼロ校舎一階の多目的室にきてくれない? せんえーすくんもいいよね?」


「……いや、えっと、あんまり、よくないっすね……正直、怖すぎるんで……」


 と、素直な感想を述べるセン。


 その隣で、才藤が、

 なぜか、スっと真顔になって、


「ちなみに、なぜですか?」


 と、当たり前の疑問を投げかけると、

 羽金は、屈託のない、快活な笑顔を強めて、


「少し話したい事があるんだよね。ここでは言えないこと。時間はとらせないよ。じゃ、お願いね」


 有無を言わさず、そう言い切ると、

 羽金は、才籐とセンに背を向けて去っていった。



 残された二人は、数秒ほど、

 無言の時間を過ごしたが、

 まず、センが、


「……ぇ、えと……え、どうする?」


 と、才藤にそう声をかけた。


 すると、才藤は、

 それまで、羽金に見せていた『特殊サイコ感』をひそめて、

 普通のクソ陰キャらしく、軽くゴニョついてから、


「……いや、まあ……なんか……行かないのも……怖くない?」


 本音を口にする。

 そのまじりっけのない本音に、センは共感した。


「まあ、うん……そうねぇ……シカトするのも、ちょっと、ザワつきが残るねぇ」


 そんなセンの肯定を受けた才藤は、

 数秒の悩みを経てから、


「……じゃあ、えっと……行く?」


「いや、でも……んー……正式に『行く』という結論を出すのは、少ししんどいというか……できれば、いきたくないというのが本音というか……んー……」


 ゆるぎない陰キャ力全開で、『どうしたものか』と話し合う両者。

 まあ、実際のところは、話し合っているのではなく、

 おたがいにゴニョついているだけで、

 一歩も前には進んでいないのだが。


 そんな、無駄な会話が、数秒流れたところで、

 才藤が、


「……とりあえず……俺は……行っておこうかな……怖いし……」


 と言うと、

 センも、


「……そうねぇ……じゃあ、まあ、一応……行く?」


 と、問いかけると、そこで、

 才藤が、怪訝な顔をして、


「え、もしかして、一緒にいく感じ? それは、ちょっと……俺、集団行動とか無理だから……」


「あ? ふざけんな。一緒に行こうなんて一言も言ってねぇだろ。俺は孤高を愛しているんだ。今のは、単純に、『行くか、行かないか』の確認であって、決して、一緒に行こうと誘ったわけじゃねぇ。気持ちの悪い勘違いはやめてくれ。俺はそういうのじゃないから。マジで!」


 と、とんでもない早口でそうまくしたてたセンに対し、

 才藤は、心の中で、


(うわー……きっしょっ……)


 と、普通に引いていた。

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