47話 不穏な提案。


 47話 不穏な提案。



「勝った! 勝った! 勝ったぁああああ!!」



 武に没頭した2万年。

 他の誰にもマネできない、この狂気の研鑽は、

 センエースを支える『どでかい器』の一つになった。


 苦しんで、苦しんで、苦しんで得たものの強固さ。

 これを砕ける者など、おそらく、存在しない。


 センエースは磨かれた。

 鋼の精神力は、より堅牢になった。


 たどり着いた修羅の華。

 長い長い旅の果てに、

 ようやく成し遂げた偉業。


 もちろん、ここは、まだ道の途中。

 だが、確実に、分水嶺となる中継地点は突破した。


 センに敗れたロイガー・オメガバスティンの肉体はバラバラに分解されて、厳かに再構築されていく。

 砕かれた粒子が綺麗に整って、

 奇怪なカギとなる。


「……まずは一つ……あとは、ウムルと、ツァーグの二つ」


 必要なカギは三つ。

 センは気合を入れなおす。


 ただ、実際のところは、もう多少、肩の力を抜いてもいい案件だった。

 センは強くなった。

 本当に強くなった。


 だから、


「なんか……壁を超えた気がするな……」


 ウムル・オメガバスティンは、もちろん強かったのだが、

 しかし、今のセンの敵ではなかった。

 センはあまりに強くなりすぎた。

 ドラ〇エで言えば、ラスボス前のダンジョンでレベルMAXを達成してしまったような状態。


「……ん?」


 そこで、ふと、妙な気配を感じて、センは、ウムルの死体に視線をおくる。

 ウムルの死体が、グニョグニョとうごめいて、

 漆黒の多面体になった。


 そして、その多面体は、別に、誰も呪文を唱えていないに、勝手に、ブルブルと震えながら、より強い黒色で発光しはじめた。

 輝きは、いつしか粒子となって、パラパラと世界に舞い散って、一つのシルエットをつくりだす。

 次第に、シルエットは、影となり、

 影は、黒肌の美青年となった。



「そんなに身構えなくていいよ、センエース。少し、話がしたくなっただけさ」



「……話ねぇ。なんの話をするつもりだ? 天気の話でもするか?」


「そんな非生産性の権化みたいなクソ以下の会話をする気はないよ」


 と、笑ってから、


「強くなったね、センエース。もはや、オメガバスティオン化された連中も相手にならないだろう」


「ああ、もう、どんな敵であろうと、今日という日に辿り着いた俺の相手にはなりえねぇ。このまま、クトゥルフ・オメガバスティオンを殺してやる」


「……できるといいねぇ」


「なんだ、その含みのありそうな言葉は。不穏になるじゃねぇか」


「君に、一つ提案しよう」


「提案?」


「うん。実はね――」






 ★





 ――翌日の夜。

 センは、先日の夜、ニャルから受けた提案について、

 色々と考えながら、


「ツァーグ・オメガバスティン……最初に闘った時は、エグ味しか感じなかったが……今となっては、すべてが想定の範囲内」


 ツァーグをボコボコにしていた。


 ロイガー、ウムルと、叩き潰してきたセンにとって、

 もはや、ツァーグも敵ではない。


 プライマルプラチナスペシャル『共鳴融合』を持つ難敵……

 とはいえ、元々の二体がそこまで高性能ではないので、

 『センキー』的な怖さは感じなかった。


「所詮は、ザコ二体の合体。永(なが)きを積んできた俺の相手にはなりえねぇ」

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