75話 最後の終焉をはじめよう。


 75話 最後の終焉をはじめよう。


 うなだれているオメガの元に、

 近づいてくる二人がいた。


 一人は、センの同級生で後ろの席に座っている反町。

 一人は、センの担任をしていた時期もある教師挙茂。


 二人は、

 オメガのすぐ近くまで歩を進めると、


 まず、挙茂が、


「お前は頑張ったよ。お前は……『俺たち』は……ちゃんと頑張った」


 続けて反町が、


「お前の奮闘はコスモゾーンに刻まれている。その軌跡は、間違いなく、センエースの器になっている」


 そんな二人の言葉に、

 オメガは、奥歯をかみしめて、



「誰かの器になりたかったんじゃない……俺は……俺自身が……」



 オメガの慟哭に、

 反町が、


「そんなことを言いながら、実はホっとしている。……そうだろ?」


「……」


 挙茂が、寄り添うように、


「センエースが待っている。最後の終焉を始めよう。お前たちは……本当によく頑張った。俺は心からそう思っている」


「うるせぇ……うるせぇ……うるせぇ……」


 口の中が切れて血が流れた。

 充血した目から赤い涙が流れる。

 赤血球を伴う涙が、オメガの心情を明確に表現している。


「きゅい」


 心配そうな声で泣くルナに、

 オメガは、視線を向けた。


 怒りと憎しみを込めて、

 しかし、それ以外の感情も確かに込めて、


「……何が足りなかった……何がダメだった……なんでだ……どうして……」


 反省と後悔と疑念と禍根。

 色々な心の作用が重なり合って、

 今のオメガを構成している。


 『無様を煮詰めた本音』の集合体が、

 グツグツと沸き立って、醜く溶けていく。


 グっと、かみしめて、

 ゴクっとツバを飲んで、

 八つ当たりのような練度で、

 オーラと魔力を充満させていく。


「……なにがヒーローだ……」


 言葉で自分を支える。


「なにが…………くそが……」


 フラつく。

 グラっとする。

 ほとんど、意識が朦朧としている。


 けど、それでも、オメガは前を見る。

 ルナの目をジっと見つめて、


「呼べよ……『お前の主』を……」


 涙を拭いて、

 嗚咽を我慢して、


「全部……受け止めてやるから……」


 最後の許可を得ると、

 ルナは、天を仰いで、

 腹の底から、


「きゅぃいいいいいいいいいいっっ!!」


 と、叫び声をあげた。

 まるで、救難信号のように。

 座標でも示すかのように、

 ルナは、腹の底から、

 命の限り、想いをあげた。


 ――その叫びが道標となった。

 時空のあちこちに亀裂が入る。

 まるで、出来の悪いファンファーレみたいに、

 世界のあちこちで、運命の軋む音が響く。


 そして、顕現。


 深い輝きに包まれた神の王。

 鮮やかなオーラを身に纏い、

 ほとばしる魔力を背負う男。


 輝きの中にいる男に、

 オメガは、視線を向けて、



「お前は誰だ?」



 と、礼儀を尽くした。

 その行動理由は、『礼儀を尽くしたかったから』ではない。

 『ここまでの命の全て』に対して敬意を表しているだけ。


 それが理解できたから、

 『光に包まれている男』は、


 真摯な瞳でオメガを見据えて、




「俺は究極超神の序列一位。神界の深層を統べる暴君にして、運命を調律する神威の桜華。

 ――舞い散る閃光センエース」




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