54話 僕と契約して……
54話 僕と契約して……
オメガ火ゴブリンの胸の中に、
『粒子の塊』とでもいうべき『何か』が、ドクドクと、脈動しているのに気づいたセン。
極めて不安定な、粒子のとどまり。
その粒子の輝きは、とてもあわいのだが、
しかし、強く、強く、センを惹きつけた。
まるで、何かを『訴えかけている』かのように、
チリチリと光を放っている。
――と、そこで、
それまで静観していたオメガシャドーが、
「通訳をしよう。『オメガ火ゴブリンの魂魄』はこう言っている。『僕と契約して、オメガセンエースになってよ』……と」
などと、そんな言葉を投げかけてきた。
「……」
「五秒あげよう」
そう言いながら、オメガシャドーが、パチンと指をならすと、
まるで動画の一時停止のように、
オメガバスタードラゴンの身体が、ビタッと完璧に静止した。
その様子を横目に、オメガシャドーは、
「さあ、どうする?」
問われた瞬間から、センの脳は、
これでもかと言うほど、エゲつない速度で回転する。
バチバチとインパルスがきらめく。
(……コレと契約するってのは、おそらくヤベぇ……どうヤバいか、明確には分からねぇが……ある程度の予想はつく。おそらくは、俺も、このゴブリンや、あのドラゴンみたいに『壊れる』ってことだ……ヘタしたら、自我を失うかもしれねぇ。知性を見失い、ただ暴れ散らかすだけの化け物に堕ちる……イヤだな。なりたくない。当然。当たり前。そんな『強さ』は、俺が望むソレとはかけ離れている。――しかし――)
きわめて濃厚な数秒。
通常の五秒では、絶対にありえない量の思考を経てから、
センは、オメガシャドーの目をジっと見つめて、
奥歯をかみしめながら、
「……どうするもこうするもねぇ……このままだと俺は、ただ死ぬ……それはダメだ……俺には……やるべきことがあるっ!」
強い目でそう言い切ったセンに対し、
オメガシャドーは、ニっと黒い笑顔を浮かべて、
「OK。君の意志は確認した。では、オメガ火ゴブリンの魂魄を喰らうがいい。今日から君は――これまでよりも一歩、踏み込んだ君になる」
その発言の直後、
センは、オメガ火ゴブリンの魂魄をバグっと丸のみする。
サイズ的にはミカン一個分。
口の中が、一瞬、魂魄でパンパンになったが、
二秒ほどたつと、『火の中の氷』みたいに、
口の中で、スゥっと溶けていった。
――その瞬間、ゾワっとした。
全身の全てが、オメガ火ゴブリンの魂魄を拒絶しているのが分かる。
「うぐっ……うぅう!」
まるで免疫暴走。
体の全てがひっくり返るような感覚。
全身のいたる箇所にジンマシンがあふれ、
頭痛や吐き気など、不定愁訴が目白押し。
「うぼぉえっ……うぇっ……」
もはや『拒絶しても意味がない』と理解した肉体は、
次に『適応』の段階に入る。
進化なのか退化なのか分からない変革が起きる。
センエースは変わる。
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸の乱れは、
時間と共に収まる。
「――ふぅ……」
適応は終わった。
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