43話 たぶん。知らんけど。


 43話 たぶん。知らんけど。


「このゲームは、選択肢が無限に見えるが、コマの動きがダイナミックすぎるから、基本的には、定石どおりに進めんと、ハメ手で詰められて終わる。『わからん殺し』に対して、どれだけ理解があるか……その総量で勝敗が決まるクソゲー」


 ザっと、ゲームのレビューをしていくトウシ。

 その評価は、かなりの酷評。


「まあ、もちろん、ハメ手に対する完全理解をした者同士でやりあえば、それなりにまともなゲームになるやろうけど、そこまでたどり着けるやつが、はたして、何人おるんかっていうゴミゲー」


 そこまでなら、ロイガーでも理解できている。

 このゲームは、序盤の基礎が固まっていないと話にならない。


 初心者では、経験者に、絶対に勝てないタイプのゲームは多々ある。

 『コマンドが難しい格闘ゲーム』などがその一例。

 無限将棋は、そんな、初心者に厳しい系ゲームの頂点といってもいい。


 ゆえに、普通ならば、

 初心者(トウシ)が、経験者(ロイガー)に勝つなど、

 絶対に、ありえない。


 ありえないはずなのに、

 トウシは、さらに、そのナナメ上をいく。


 トウシは、ビギナーズラックで勝利したわけではない。

 完全に、全てを把握した上で勝利したのである。


「基礎固めで決まる序盤を抜けた先は、ジャンケンを繰り返していく感じやな。で、さらに、その先の領域にたどり着いた場合、完全なマルバツゲームになる。このゲームは、お互いが、最善手を打ち続けた場合、先手が勝つようになっとるから」


「……先手が勝つ……と、どうして……言い切れる?」


「だから、全部を解析したからやって。何度も言わすな、お前、アホなんか。細かいルート分岐の点で多少の違いは出るけど、結局のところは、途中で収束するようになっとるから、細かいルート解析は、そんなにいらん」


「……」


「所詮、卓上ゲームは、大半が、数とりゲームの延長でしかない。盤上の形と駒の動きが固定である以上、『絶対に勝つ方法』……あるいは『絶対にまけない方法』は存在する。この無限将棋は先手が絶対に勝つ」


「本当に……読み切ったというのか……いや、無理だ……この無限将棋は奥が深すぎる。かぎりなく無限に近いパターンがあるはず……」


 無限を処理することなどできない。

 そう理解しているロイガーに、

 トウシは、サラっとした顔で、


「実現可能局面数は10の17兆乗。それが、このゲームの実質的なパターン数。本将棋の実現可能局面数が、10の100乗以下って言われとるから、無限将棋がどんだけダルいか、よぉわかるな」


「10の……17兆……い、意味が分かって言っているのか……そんな天文学的数字を、完全解析するなど、できるわけがないだろう」


「別に、一個一個を読み込んだわけやない。そんなことしとったら、人生が何回分あっても足らん。解析しとる途中で、法則や公式が山ほど見えてきたから、あとは分解して、整理して、処理をしただけ。まあ、もちろん、その方式でも、そうとうな時間がかかるんは自明。普通のやつには、もちろん出来んで? けど、ワシなら可能。ワシは、たいがいの不可能を可能にできる。演算速度だけは、この世の何にも負けんから。たぶん。知らんけど」

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