62話 日本人は気持ち悪い。


 62話 日本人は気持ち悪い。


(携帯ドラゴンが日本にしか存在しない現状で、さらに、センエースという過剰な戦略兵器まで保有しているとなれば、日本の発言権がさらに高まってしまう。このままいけば、日本が世界の覇権国家になってしまう。それは許されない。覇権国家は存在してはいけない)


 ゾーヤは、『日本(紅院正義)』の動きを非常に警戒している。

 彼女の目には、日本と言う国が、奇形の蛇に見えている。


(日本は、非常にしたたかな国だ……弱者を演じながら、見えないところで牙や爪を研ぐ狡猾な毒蛇。アジアの中では、比較的マシな人種と言えなくもないが、根本的に『気持ちが悪い民族』であることに変わりはない……)


 彼女は、基本的に、日本人が嫌いである。

 『ユダヤ人を排斥したヒトラー的な嫌悪』ではなく、

 単純に『合わない』という感情論。


 気味の悪い愛想笑いや、奇妙な潔癖&完璧主義が鼻につく。

 おまけに、謙虚を前面に押し出しているくせに、実は呆れるほどプライドが高い。


 もちろん、いい部分もある。

 器用さや向上心や勤勉さは感嘆に値する。

 しかし、外交上の『人間性』という点においては論外。

 普通に気色が悪い。


 そして、そう思っているのは、彼女だけではない。

 他の国のフィクサーの中でも、日本に対してそう思っている者は少なくない。


(センエースという圧倒的な戦略兵器の存在が事実だった場合……その所有権を『日本の独占』という形に収めるのだけは、絶対に防がなければいけない……)


 ――などと、

 ゾーヤが考えていると、


 そこで、


「ん?」


 誰かが気づいた。

 誰が最初だったかはどうでもいい。


 コンマ数秒後には、その場にいた全員が気づいたから。



「……な、なんだ?」



 空中に出現した、歪なジオメトリ。

 誰もが目を奪われる淡い光を放つ魔方陣。


「っ……あの奇妙な形状の刻印……ま、魔導書で見たことが――」


「神話生物っ?!」


 ここにいる全員が、聡明で、理知的で、

 かつ、神話生物に対する『理解だけ』はあるため、

 状況を、即座に飲み込むことができた。


 しかし、飲み込めただけで、消化しきれるかというと、また別の話。






「ギギ……ん? 座標が少しズレたな……ま、別にかまわないが」






 空中に出現したジオメトリから、

 突如、沸いて出たバケモノ。

 一応人型ではあるが、イソギンチャクの頭を持つ奇形種。



 その化け物は、その場にいる各国のフィクサーたちを見渡して、


「ギギ……どいつもこいつも、脆弱、脆弱。なんとかよわい命か」


 ニタニタと微笑みながら、


「貴様らの命に興味はないが、しかし、契約は契約だ。絶望の最果てを、その魂魄に刻んでくれよう」


 などと言いながら、

 その化け物は、

 ゆっくりと首を回す。


 そんな化け物に、

 ナバイアが、懐から抜き出した銃を向け、


「き、貴様……神話生物か?」


 と、聞くまでもない質問のジャブを打つ。


 そんなナバイアの問いに、

 化け物は、



「私は、神話生物の最上位。外なる神の一柱。天空に咲く美しい花。ギ=ホヴェルグ」



 たんたんと、超常の名乗りを上げた。

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