21話 宿命。


 21話 宿命。


「今の私は、パワーだけでいえば、アウターゴッドの領域にある。貴様は、間違いなく天才だが、しかし、現状だと、GOO級の出力が限界。貴様では、どうあがいても、私には勝てない。勝ててはいけない」


「……ほう。『勝ててはいけない』とまで言い切るとは、とんでもない不遜具合やな」


 対面で、虚勢をはりながらも、

 しかし、トウシは、内心で、普通にビビリ散らかしていた。


(いやいやいや……これ、さすがに、強化されすぎとちゃう? いや、こんなん、勝てるわけないやん……もう、オーラがでかすぎて、何が何やら、さっぱりわからへん……というか、アウターゴッド級ってマジか? いや、アウターゴッドっていうたら、召喚された瞬間に、世界が終わる系の究極邪神やろ? いや、無理に決まってるやん。まあ、そんなこといいだしたら、GOOの時点でも、そうとう、たいがいなんやけど……いや、でも、さすがに、アウターゴッドは、さすがに理不尽かましすぎ。これは、さすがに、ないわぁ……)


 コンマ数秒で頭の中を埋め尽くした絶叫。


 頭の回転速度がはやければはやいほど、

 理解できる絶望の質量も増加する。


 トウシの心の中は、深い狂気でパンパンになっていた。


 そんなトウシに、

 ロイガーは、


「貴様には伝えておく。私を止められなければ、この世界は終わる」


「……ふぇ?」


「私は、貴様を殺したら、すぐさま、そこにいる女どもを殺し、そして、そのまま、この世界に生きるすべての命を狩りつくす。この世に、命は存在しなくなる。すべては無にかえる」


「……ぇえ……なんで、そんなことするん?」


 人類が抱く『当然の疑問』をぶつけられたロイガーは、

 冗談の要素がいっさいない『まっすぐな目』で、


「それが私に課せられた宿命だから」


 と、ハッキリ言い切った。


「……宿命……宿命ねぇ……ワケわからへんなぁ……神様なんやったら、人のことは、ほっといてくれや。というか、むしろ、逆に助けてくれや……なんで、人類に対して、そんなヘイトマックス? おどれ、人類に親でも殺されとんのか?」


 文句が止まらない。

 不満だけではなく絶望も津波のように押し寄せる。


「……いや、ちょっと待ってくれよ……え、マジか……勘弁してくれや……いや、ムリやん……だって、勝てるわけないやん……いくらなんでも、あんたは強すぎる……今のワシにどうこうできる領域やない……」


「その事実を、正しく理解した上で、さあ、貴様はどうあがく?」


 そう言いながら、ロイガーは、

 軽く握った拳を、

 まっすぐに、トウシの顔面に向けて放った。


 軽いジャブ。

 当ててはいない、寸止めのムーブ。


 トウシの感覚だと、

 巨大隕石が目の前をかすめていった感じ。


 ゆえに、


「――どぇえええええっっ?!」


 コンマ数秒のマヌケな間をおいてから、

 トウシは恐怖を叫び散らかした。


 理解できない速度とパワー。

 恐竜を前にしたアリの気分。


 当たれば確実に死んでいた。

 その恐怖が、時間の経過と共に膨れ上がっていく。


 往々にして、突発性の恐怖体験は、

 直面した瞬間よりも、あとから思い出した時の方が怖い。


(いや、これは無理やな……学習する前に死ぬ……)

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