40話 痛ぇ。


 40話 痛ぇ。


「あんたは生きていない方がいい」


 メナは突撃する。

 自分の中の正義を遂行するために。

 本気でセンを殺すつもりで特攻をしかけた。


 ガチンコの殺意。

 その殺気に対し、センは、


「はんっ」


 鼻で笑い、


「確かに、才能はあるっぽいな。努力のあともうかがえる。そこらの一般人なら、大の男であったとしても、ほとんど抵抗できずに殺されるだろうな。けど、残念。俺は一般人ではなく王だから、お前ごときに殺されたりはしませーん」


 そう言いながら、

 雑にメナの腕を払って、

 彼女の腹部に雑なヤクザキックをいれる。


「がはっ!」


 軽く吹っ飛んだメナは、

 腹を抱えて、


(この男……反応速度と膂力(りょりょく)が……想像以上……というか、異常な領域……携帯ドラゴンの補正を受けているから?)


 などと、頭の中で、色々と考えている彼女に、


「どうだ? 俺は強ぇだろ? てめぇらメスブタは、俺の強さのもとにひれ伏し、ふやけるまで足をなめていればいいんだ。それ以外に、てめぇらバカ女にできることなんかない」


「……ふぅぅ……」


 メナは、『センという男が思ったよりも強い』と認識すると同時、

 腹の底から気合を入れなおして、丹田に力を籠め、

 しっかりとした深呼吸で自分の軸を支えると、


「……最低のクズ野郎が……あの子たちの苦しみを教えてやる」


 そう言いながら、

 メナは、よりはやく、より鋭く、

 センのふところにもぐりこんでいく。


 トリッキーな動きでフェイントをかけながら、

 センの思考を誘導しつつ、


(とらえたっ……)


 首を狙っていると見せかけ、

 腕をからめとろうとする。


 鍛えられた腕力でねじきろうとする。

 とても女性とは思えない剛力。

 そこに、磨きぬいた技をかけあわせて、

 どうにか、センの肩の関節を外し、

 前腕をへし折ろうとする。


(この男、脆い……いけるっ)


 グっと、深く体重をかけて、

 バキィッっと、

 センの腕をへし折るメナ。


 センの肉体は想像するよりも脆く、

 キチンと状況を整えれば、簡単に奪うことができた。


「ぐぅううっ! ああああ!」


 激痛にもだえ苦しむセンに、

 メナは、


「あの子たちは、もっと苦しんだんだ! 反省しろ!」


 と、持ち前の正義感を叫んできた。


 そんな、彼女の発言に、センは、


「はぁあ……くそがぁ……」


 こころの底からつらそうに、

 そう声をもらす。


「くそったれが、マジでよぉ……ふざけやがって……」


 恨み言があふれ出る。

 頭の中が、ぐちゃぐちゃになっているセン。


「どんだけのことをしてやっていると思ってんだ……こっちがどんだけ……くそがぁ……」


「神話生物を倒す手伝いをしていれば、なんでも許されるとでも思っていたのか? 確かにそれは重要だが、その弱みにつけこんで非人道的な傍若無人を通す輩など、世界にとっては害悪でしかない」


 そう宣言した上で、

 あらためて、


「――反省しろ」


 と、心からの猛省を要求してきた。


「痛ぇ……くそが……痛ぇ……痛いぃ……」


 うめきながら、

 センは、その場でうずくまり、


「痛ぇ……痛ぇ……」


 複雑な『痛み』を口にし続ける。

 折れた腕の痛みはどうでもよかった。

 いや、もちろん、痛いのだが、

 それよりも強く痛む場所があったので、

 腕の痛みが気にならなかった。

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