28話 矛盾の塊を背負った主人公。


 28話 矛盾の塊を背負った主人公。


「――『時空ごと世界を終わらせる』……それを成すまでは、絶対に帰らない。そういう感じだろ、どうせ。――わかっているよ。俺の人生って、だいたい、いつも、そんな感じだから。なぜか、甘えが一切ゆるされねぇ。ほんとうにしんどい。ほんと勘弁してほしい」


「……諦観が板についている。しかし、諦めが非常に悪そうでもあるという矛盾。貴様はすべてが歪んでいる」


「さすが、神々の頂点を名乗るだけのことはある。理解力が素晴らしい。まさに、俺は、そんな感じ。『諦観だけが人生である』というブザマさを信条にしていながら、『諦め方を忘れている』というヤバめの前衛アート」


 たんたんと並べられた言葉。

 しかし、中身に込められているのは狂気の覚悟。


「とことん終わっているサイコパス。だからこそ叫べる何かでもって、俺は、お前というナイトメアを駆逐する」


 覚悟を示した宣言。

 重たい絶望を前にして、

 だからこそ、センは強く輝く。


 とことんまで膨れ上がった絶望だけが、

 『センエースの魂魄』を磨きあげる砥石。



「さぁ、行くぞ、ヨグシャドー。殺してやる」



 全力でとびかかるセン。

 限界までオーラを溜めた拳を、

 一心不乱にたたきつける。


 全速の加速。

 今のセンに出来る最高の一撃。

 最善にして最速の一手。


 その結果、

 何が起こったかというと、




「……ぁの……えっと……ぼくのパンチなんですが、少しくらいは痛かったですか?」




「どう思う?」


「……そ、そうですね……ボク的には、『そよ風ぐらいにしか思われてないんじゃね?』……っていう印象ですかねぇ」


「まさにその通りだ」


「ですよねー、はははー」


 笑いながら、センは、

 舞台上でスベり散らかした芸人が楽屋に帰るようなテンションで、

 ゆっくりと、元のポジションに戻る。


「おかえりにゃさい」


 すごすごと帰ってきたセンを出迎えた茶柱は、


「それで、勝てそうかにゃ?」


 と、無慈悲な質問を投げかける。


 センは、たっぷり五秒間、ジックリと間をとってから、

 スゥウっと大きく、肺いっぱいに空気をためて、




「勝てるかぁああ!」




 と、魂からの慟哭で『全力の否』を叫んで、


「あんなもんに勝ててたまるか! ナメんなよ! 言っておくが、あいつ、たぶん、スーパーセンエースなみに強いからな! だから、むりむり! さよーならぁあ! また来週!!」


「スーパーセンエース? それってなんなのかにゃ?」


「いちいち説明するのも面倒だ! テメェで考えろぉお!」


 豪快にテンプレを暴投してから、

 センは、ヨグシャドーを横目で睨み、


(くそ、やっべぇ……あそこまでの強さかぁ……想定の12000倍ぐらい強いぃ……あれは、さすがに無理だなぁ……俺とあいつとの間には、働きアリとハイニューガ〇ダムぐらいの差があるなぁ……)


 現状を正しく認識するセン。

 『どうしようもなさ』の精度を受け止めると、

 頭が普通にクラクラしてきた。


(強くなれたと思っていた……いや、実際、だいぶ強くはなったんだが……)


 冷たい汗が背中を流れた。

 自信が根こそぎ溶けていく。

 眩暈がして、頭痛に見舞われる。

 肉体的な疾患ではなく、自律神経の失調。


 ヨグシャドーという、ありえないレベルの絶望に、魂魄がビビり散らかしている。

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