32話 お人よし。
32話 お人よし。
「私の気を引くために、話を大幅に盛っているのだろう――最初はそう思っていましたが、あなたと時間を共にし、あなたの根底にある『性質』を知ったことで、私は、あなたの話が『嘘ではなかった』と強く確信しました」
「まあ、確かに嘘ではない……が、しかし――」
と、反論しようとするセンを、
黒木は片手で制し、
「私の話はまだ終わっていません」
強い目と口調でそう言い放ち、
「あなたの『異常』は、強さだけではなく、その『過剰な優しさ』にもあります。この世界に来てから、ずっと、あなたは、『無邪気に異世界を楽しんでいる風』を装い、その背中を見せつけることで、私の不安感を取り除こうとしている。あなたの『お人よし』具合は尋常ではない。狂気の沙汰と言ってもいい」
「……お、お人よし……だと……? な、なんと、愚かな……この『ニヒル&ダーティという骨格』が、『自己中心という贅肉でまみれている』かのような、『最低最悪の具現と言っても過言ではない俺』には、もっとも似合わない言葉――」
などと、ワナワナしながら反論しようとするセンに対し、
黒木は、追撃の手を一切ゆるめず、
「私は、これまで、『優しさ』や『お人よし』という点に関して、『トコさん』が史上最強だと思っていましたが……あなたは、彼女に匹敵する……どころか、今となっては、超えているのではないかとすら思えてきています」
そこで、センは、天を仰いで、大きく息を吐いた。
我慢の限界を迎えた顔。
ギャグの要素を一切排除した、まっすぐな顔で、
「いい加減にしてもらおうか。この俺を、あんなイカれ狂人の『上』に置くなど、あまりにもひどすぎる人格否定だ。俺は、確かに『問題のある性格』をしている。その指摘は甘んじて受け入れよう。が、しかし、『薬宮トコ』の『上』にはいない。それほどまでの過剰な侮蔑は、さすがに看過できない。撤回を要求する。『正式な発言の取り下げ』が行われなかった場合、訴訟も辞さない」
そんなセンの全力否定を、
黒木は、
「よって」
完全シカトで受け流し、
「私は――」
世界を見渡しつつ、
ぽつりと、
「あなたのことを、『この世界で崇められている英雄神が、第一アルファに転生した姿』ではないかと疑っています」
などと、そんなことを口にしだした。
その発言に対し、
センは、『死んだ柿』でも食べたみたいな『シブい顔』になり、
「アホなことを……」
心底だるそうに、そうつぶやいてから、
「黒木、お前の発想は、あまりにも飛躍しすぎだ」
と、全否定を枕に置いてから、
たんたんと、とうとうと、
「根本の話をしよう。さっきのニーチャンの話を聞く限り……まあ、ひどく断片的だったから、いまいち、よくわからなかったものの……しかし、この世界におけるセンエースって神が『ただの偶像』で、『実在はしない』って点だけは、よく理解できた。実在しないものが転生したりしねぇだろ。これが、すべての答えだ。証明するまでもなかった」
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