82話 勝ち風呂。


 82話 勝ち風呂。


「――【弧虚炉(こころ) 天螺(あまら) 終焉加速】――」


 極大なスペックを誇る神の魔法を使われたヨグは、


(圧縮の魔法か――いったい何を? いや、それより、回避を――できる? 不可能ではないが――)


 そんな『思考の時間』すらワナの一つ。

 ソンキーは、


「本命はこっちだ」


 放棄したシッポの中の一つ。

 龍暗刻のファンネルに隠しておいた剣。

 『純正(じゅんせい)/異世界転移無法(いせかいてんいむほう)』のバフ効果で、極限まで強化された嵐。


「――『ギルティ/チェイン:ソードスコール・ノヴァ』――」


 禍々しい鎖が絡まり合って、

 ライフルのような剣の群れをタクトする。


 複雑なカオスの螺旋。

 繋がり合って自由になる。


 たった一つの道筋。

 何重にも張り巡らせたワナの群れが、

 ヨグの胸部に風穴をあけた。


「……ふむ……貫通に全振りか……」


「ああ、火力はシカトした」


 言いながら、

 ソンキーは、ヨグの胸部内をまさぐって、


「見つけたぞ……」


 グシュっと、引き抜いた腕は、血まみれで、

 その手には、ごつい厨二ナイフが握られていた。


「奪い取れ……エルメス……っ」


 ソンキーの命令で、

 ソンキーの全身を覆っている龍化外骨格の一部が変形し、

 ごつい厨二ナイフ――図虚空に食らいつく。


 ほとんど咀嚼することなく、必死に飲み込んだ。

 その先に待っていた光はカルマの余韻。


 ブーン、と、何かが振動する音が響いた。

 ソンキーの脳内だけなのか、世界中に響いたのか、

 その辺の区別はつかなかったが、

 どうでもよかった。


 とにもかくにも、




「……がはっ、ごほっ、げへっ!!」




 ペっと、エルメスの口から吐き出されたベットベトの青年。

 目つきが悪くて、性格が悪そうで、顔面偏差値50前後の閃光。


 ――その歪んだ光は、


「はぁ……はぁ……」


 全身を覆っている粘液を雑にぬぐいながら、

 軽く呼吸を整えると、

 ソンキーに視線を向けて、


「よくぞ、俺を回収した! 褒めてつかわす!」


 そう叫んだ。

 そんなお褒めの言葉に対し、

 ソンキーは、ブチギレ顔を向けて、


「――『助けていただき、ありがとうございます、感謝の言葉もありません』だろうが、ボケ。ナメた口をたたくな、ド変態」


「感謝の言葉はまだはやいぞ、ソンキー。その辺の諸々は、ここを切り抜けてからの話だ!」


「それを言っていいのは、俺だけの特権で、てめぇが口にしていい代物じゃねぇ」


 軽く言葉を交わし合ってから、

 顔面偏差値50のド変態――センエースは、

 全身に力を充満させていく。


「よし、問題ない。何かしら欠損があるかと思ったが、全部、問題ない。勝ったな」


 アウターゴッドの重ね着も、

 GOOの補正も、

 プラチナムも、

 オメガレベルも、

 虹気も、

 これまで積み重ねてきたすべてが、

 今もなお、センの力になってくれている。


「じゃあ、ソンキー。あとは任せたぞ。俺は風呂に入ってくる」


「なんのために苦労して、お前を召喚したと思っている。俺の手足として、馬車馬のように働け」


 言葉をぶつけ合いながら、

 互いのオーラを探り合う。

 命の隙間に想いをそそぎ、

 共鳴の可能性を模索する。


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