81話 異世界転移無法。


 81話 異世界転移無法。


「他者をとことん利用して、おぞましい泥をすすってでも、がむしゃらに上へと這い上がっていくしかない」


(難儀な話や)


「まさしく」


 言葉を切って、

 二人は、魂を一致させる。


 グンと、膨れ上がる。

 何かが。

 こみあげてくる。

 深く、遠く。



「……ゴスペル・ヘブンズキャノン……」



 すべてが一致した。

 ただの運ではない。

 運命を食い破ってたぐりよせた可能性。




「……『純正(じゅんせい)/異世界転移無法(いせかいてんいむほう)』……今の俺に表現できる究極の最強」




 輝くシッポを魅せつける。

 狂気をまとった切り札。

 常軌を逸した可能性を感じる。

 その波動は、ギラギラとした殺気に満ちていて、

 『命の中心に宿る力強さそのもの』を表現しているかのよう。


 そんなソンキーに、

 ヨグは、


「確かに強くなった……全能力が底上げされている。だが、私に届いているとは思えないな」


「今、この段階で、俺が、お前を殺せるかどうかは問題じゃない」


「ん?」


「俺の中に刻まれた『舞い散る閃光の因子』が、ずっと騒いでいる」


「……」


「……『奪い返せ』、とわめいている。『回収しろ』と、やかましく」


「……」


「鬱陶しい道標。目障りな輝き。だが、使い道はある。この世で、俺が唯一認める『命の全てが抱く希望』の一等賞」


「……」


「返してもらうぞ。俺の『希望(ゴミ箱)』を。舞い散る閃光がいないと、キングボ〇ビーを押し付ける相手に困ってしまうんでなぁ」


 宣言した直後、

 それまでの速度を超越するソンキー。


「ヒーローは柄じゃねぇ。いつだって、俺は、ただ、我(が)を磨き続けるだけの強欲な修羅。世界の命運なんて厄介な責任(ゴミ)は、舞い散る閃光に、全て押し付けさせてもらう」


 でかいシッポが三つも生えて、

 質量的には重くなったはずなのに、

 破格の軽やかさでもって、

 ヨグとの距離をみじん切り。


 ヨグは、


(反応できない速度ではないが……)


 一瞬の中で、ソンキーのムーブを解析する。

 動きの質を読み取って、

 次の一手を予測する。


(亜空間に忍ばせた『異世界転移無法』の切っ先で死角から強襲――それが、私にダメージを与える可能性のある唯一の手)


 非常に、お行儀のいいムーブ。

 出来のいいAIみたいに、

 可能性の高い未来を選び取る。


 その思考に対し、

 ソンキーは、


「命の奪い合いは、相手の予測ってやつを、どれだけ裏切れたか……そういうゲームだと、少なくとも、俺は認識している」


 刻まれた時間の中で、

 ソンキーは、持論を展開しつつ、

 三つのシッポを切り離した。


 そのムーブには、さすがのヨグさんも、


「っ?!」


 一瞬、目を丸くした。

 理解ができない一手。

 完璧な悪手。

 悪手というか自殺行為。


 そう認識できた時にはもう一手遅かった。


 まっすぐ、懐に飛び込んできたソンキーは、

 右手を、とことん鋭利に硬質化させて、


「――【弧虚炉(こころ) 天螺(あまら) 終焉加速】――」


 極大なスペックを誇る神の魔法を使う。


 すべては一瞬の出来事。

 そんな、一瞬の中で、

 ヨグは、淡々と、


(圧縮の魔法か――いったい何を? いや、それより、回避を――できる? 不可能ではないが――)

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