18話 おそろしく強いデジャブ。


 18話 おそろしく強いデジャブ。


「……ちなみに、聞くけど、ダンジョンに入った時、そこが『異世界だったこと』って、これまで、何回ぐらいある?」


「はじめてです。なので、そこそこ戸惑っています」


「……なんで、これだけの異常事態に対して、戸惑い方が、『そこそこ』どまりなの? 君、いろいろと、おかしいよ?」


「携帯ドラゴンや神話生物という異次元的存在が周囲にありふれているので、感覚がマヒしているのは事実ですね」


 シレっとそんなことをいう黒木に、

 センは、一度、『変態を見る目』を送ってから、

 心の中で、


(まあ、かくいう俺も、戸惑い方に関しては、かなり薄いところがある。おそろしく強いデジャブ……俺でなきゃ見逃しちゃうカテゴリの感覚)


 不安を置き去りにして、

 心が和んでいるのを感じた。

 魂魄の芯が『安らぎ』を感じている。


(……異世界転移……これだけふざけた状況に陥っているというのに、この『実家のような安心感』は、いったいどういうことだ……)


 むしろ、『これまでいた世界』こそが、『他人様の家』で、

 この『謎の世界』こそが、『自分のホーム』である、

 という、奇妙な感覚に包まれるセン。


 そんな、『謎の感覚に包まれていること』に対し強く戸惑っていると、

 そこで、黒木が、


「戸惑ってばかりもいられません。見てください。次元の裂け目がなくなってしまいました。これでは、帰るに帰れません」


「……あ、ほんとだ。え、ヤバくない? ウソでしょ? え、やばぁあ! うそぉおんん!!!???」


「事実です。さて、どうしますか?」


「……ねえ、黒木さん。ねぇねぇ、なんで、あなたは、そんなに落ち着いていられるの? ねぇねぇねぇ」


「落ち着いているワケではなく、過剰に開き直っているだけです。具体的に言うと、先ほど、あなたに侮蔑されてヒートアップした脳が、まだまだ、ぜんぜん落ち着きを取り戻しておらず、その結果、現在陥っている超異常事態に対して、まともに向き合うことを、情動が放棄している――といったところでしょうか」


「ちょっと何言っているか、分かんねぇな」


「……ここに関しては、自分でもよくわかりませんね。私は、けっこう、難儀な人間なので」


「……どうやら、そのようで」


 納得しているセンを横目に、

 黒木は、


「あと……」


 そう言いながら、世界を見渡して、


「なぜだか、この世界にいると、なつかしさを感じます……いえ、なつかしさとは少し違う……もっと、別の……これは……なんといえばいいのでしょうか……よくわからないですね。語彙力には、そこそこの自信があるつもりだったのですが……どうやら、それほどでもなかったようです」


 などとつぶやきながら、

 すぅ、はぁ、と深呼吸をする黒木。


「……本当に、不思議な感覚です……」


 深呼吸に数秒をつかう彼女を横目に、センは、


(俺だけの感覚じゃなかったか……『コレ』は、この世界が『そういう特質をもつから』なのか、それとも、他に何か理由があるのか……)


 現状では、絶対に解決しえないであろう疑問を胸に抱く。

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