81話 俺の言動がキモいのは認めるが……


 81話 俺の言動がキモいのは認めるが……


「あなたの『尊い献身』に対して、人類は、『無知』を貫くべきではない。それはあまりにも不誠実が過ぎます。それを通したら、人類は、真なる原罪を背負うことになる」


「お前の宗教観は知ったこっちゃないが、とりあえず、俺に関する誤解をあらためてくれる? 俺は、俺がやりたいことを、独りで自由にやっていただけだ。喝采も賛美も必要ない。そんなものは、むしろ、俺を穢すノイズ。『俺の世界』は、俺のワガママだけで完成している」


 頑なな態度を貫くセン。

 そのイカれた目を見た事で、

 黒木は、センが、『本音』を口にしていると理解した。


 もちろん、100%の本音ではない。

 そんなものを、言語化できるわけがないから。


 正確に表現するなら『本音の一部』を口にしたといったところ。


 黒木は、バカじゃない。

 だから、センの言動が、

 『本音でありながら、しかし、それだけではない』

 という事も理解できた。


 センは確かに壊れているが、

 しかし、ただのサイコではない。


 黒木愛美は、センエースに対して、

 確かな人間味を感じている。


 センエースは人だ。

 神ではない。

 神の素養をもってはいても、

 彼はまだ人間の世界にとどまっている。


 それがゆえの苦悩。

 それがゆえの絶望。


 すべてを背負って、

 センエースは、闘い続けてきた。

 たった独りで、無限の地獄を。


 ――ソレが、正しく理解できたから、黒木は涙を流した。

 感情の要領限界を超えた。

 ツーっと、頬を伝わっていく。

 黒木の中心が、

 『黒木の心に刻まれたセンエース』を取り戻していく。


 それを見て、センは、


「いや、俺の言動がキモいのは認めるが、しかし、泣くほどではないだろう。失礼なやっちゃな」


 ファントムな言葉で世界を濁す。

 そうやって、センエースは、自分自身を霧の中に隠して、

 誰にも理解できない領域に立ち、

 世界を救うため、永遠の地獄と向き合ってきた。


 黒木は、

 まっすぐに、センを見つめて、


「あなたは……誰よりも美しい」


 心からの言葉を投げかけた。


 センは、軽く辟易した顔で、


「嫌味もそこまでいくと、いっそ清々しいね。それとも、眼科案件なのかな? なんにせよ、正常な言動ではないな。狂っている」


 最後まで幻影を貫く。

 そんなセンに、黒木は、

 絶対に言語化出来ないであろう感情を抱いた。


 それは、母性の中心にある感覚。

 返報(へんぽう)性の原理に近いけれど、

 それだけでは説明がつかない感情のオーバーフロー。


 黒木は、自分の『中』に太陽を感じた。

 ポカポカと、体の全てを包み込む。

 心の位置を正しく理解する。


 そんな黒木に、

 センは、ほんのわずかな勇気を出す。


「……お前は、俺が『ずっと独り』で闘ってきたと言ったが、しかし、実際のところは、ずっと、お前がいてくれた。さっきも説明したが、アイテム探索のダウジングマシンを頼んだのは今回だけじゃない。ずっと、お前は、俺を助けてくれた」


 センは踏み込む。

 言葉に色を乗せる。


「だいぶ強制的に付き合わせてしまった感は否めないものの、しかし、お前が俺を助けてくれたのは事実だ。正直、『お前の手を借りなければいけない状況』を、俺は、心底めんどくさいと思っていたが……けど、きっと、どこかで、お前を頼りにしていたんだと思う」

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