109話 200年。


 109話 200年。


 マザコン熾天使は、ここではない、どこかもっと遠くを見つめて、


「センエースは、信じるに値する道標だと俺は思う。少なくとも、俺達は、あいつの光をたどることで、どうにか、ここまでは、到着することができた。激烈に強大だったヨグを殺すことができた」


 グっと、握りしめた拳を見つめて、


「俺達全員を合わせても足りないぐらいの器の持ち主であるセンならば、すべての不条理を皆殺しにして、ゆるぎない理想の未来を奪い取れる……はず……たぶん……きっと……おそらく……」


「どうせなら、最後まで言い切ろうよ。末尾でふにゃふにゃされたら締まらない」


「まあ、なにはともかく、これで、明日への扉は開かれた。頼むぜ、センエース。お前だけが頼りだ」




 ★



(ぱんぱかぱーん、ぱーぱーぱ、ぱっぱかぱーん、てぃてぃてぃーん、たーたー、たぁあああっっ!)


 初日の朝。

 タイムリープした直後に、

 センの中に刻まれている『マザコン熾天使――天童久寿男』が、

 急に、雑なファンファーレを口にした。


「……え、え、なに、なに?」


 と、センがウザそうに、疑問符を投げかけると、


(ついに! お前がタイムリープをはじめてから、200年が経過しましたぁあああ! めでたぁああい! おめでとうっ!)


 そう言いながらパチパチパチパチと盛大な拍手をセンに送る。

 それに続いて、『厨二の聖なる死神――才藤零児』も、


(おめでとう)


 拍手を重ねていく。

 手と手が重なりあう音が世界に響き渡る。


 続けて、図虚空の中にいる茶柱ユウキの部分も、


(おめでとう)


 パチパチと拍手をする。

 品のいい、しかし、豪快な拍手。


 続けて、『実はいまだに図虚空の深部に残っているヨグシャドー』が、


(おめでとう)

(おめでとさん)

(めでたいなぁ)


 と、わざわざ三体に分身してまで、

 華麗な最終回テンプレをかましてきたので、


「うるさい、うるさい、うるさい! なんだ?! 俺の頭の中で、大量の拍手をするのはやめろ! 気が狂いそうになる!」


 その言葉に対し、天童が、拍手をやめて、


(なんだ? まさか、発狂していないつもりだったのか?)


「ギリギリのところで、正気を保っているという自負がある……ということにしておきたいんだよ、こっちは」


 と、よくわからない発狂した言葉を口にするセンに、

 天童は、続けて、


(まあ、何はともかく、おめでとう。200年、痛みにたえて、よくがんばった。感動した!)


「まあ、自分でも、よく、ここまで耐えたなぁ、とは思っているが……」


 軽く照れ臭そうにそう言うセンに、


(この調子で、ここからも頑張ってくれ。お前なら出来る。知らんけど)


「無責任なことをほざきやがって……」


 鬱陶しそうにそうつぶやいてから、

 センは、一拍を置いて、


「……え、つぅか、なに? お前ら、マジで、『ループ開始から200年経ちましたよ』っていうお知らせしただけ?」


(そうだが?)


「そうだが、じゃねぇよ。二度と、朝っぱらから、無意味なことで、やかましく騒ぐんじゃねぇぞ、クソ鬱陶しい」

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