10話 逆。
10話 逆。
――ほどなくして、体育が終わった。
体育館を出て、スマホに登録してある時間割を眺める才藤。
何やら、絶句の顔をしていた。
その様子を横目にセンは、
「次の授業、なんだっけ?」
と、声をかける。
突如、声をかけられた才藤は、
一度、ビクっとしてから、ゆっくりとセンに視線を向けて、
「……道徳……」
と、かすれそうな声でそう応えた。
「……道徳か……勘弁してほしいな。俺、あのイカれた洗脳教育、大嫌いなんだよなぁ。どんだけ必死こいて聞いても、何を教わってんのかすら一ミリもわからねぇ。いや、まあ、教師の話を必死に聞いたこととかないんだけれども」
「……あ、そう……」
会話をぶったぎるような返事をしつつ、
才藤は、心の中で、
(完全に同意見だな……もしかして、陰キャって、考えること一緒なのかな……)
などと考えつつ、
ダラダラと、遅刻上等の牛歩で教室へ向かっていると、
「ぁ、ちょっと待ってくれない?」
声をかけられ、才藤とセンは顔をあげた。
そこには、快活な笑顔を浮かべているポニーテールの美人さんが一人。
その彼女を横目に、センは、
(おやおや、けっこうな美人さんだねぇ。聖堂や酒神ほどの美形じゃないけど、一度見たら忘れないレベルだな。でも、記憶にない……俺の知り合いではない。ってことは才藤の知り合いかな?)
などと考えていると、
「えっと、君が……さいとうれいじくんで、そっちの君が、せんいちばんくん……で合ってる? 逆?」
と指さしながら言われた二人は、
声をそろえて、
「「……逆」」
と、答えた。
「あはは、ごめんごめん。どっちも、似たような陰……似たような文化系だったから、間違えちゃった、ほんと、ごめんね」
サラっと流すように謝ってから、
「えっと、そっちの君が、海星中学出身で、一年C組の、さいとうくん……で、そっちの君が、東中出身で、同じクラスの、せんいちばんくん……だよね?」
その確認を受けて、
才藤は、怪訝な顔をしているが、
センは、
「……訂正するのも、いい加減、ダルいんだけどなぁ……」
ため息を一つはさんでから、
「俺の名前は、センエース。壱番と書いてエースと読む。誰も一発では読めるわけがないキラキラネームに対する文句は親に言ってくれ。俺は何も悪くない。もっと言えば、俺こそが、最大の被害者だ」
「あ、エースって読むんだ。重ね重ね、ごめん。悪気はないから」
快活に笑ってそう言われてしまえば、
もはや、何も言うことはない。
センは黙って、現状を見届けようとする。
「君の方は? 読み方とか間違ってないよね? 『ぜろじ』くんじゃないよね?」
「……」
「えと、あの……聞いてる?」
再度、そう尋ねた彼女に、
才藤は、いつも以上のイカれたような目をして、
「ええ、もちろん。聞いていますよ。当たり前じゃないですか。僕は、あなたの話を一から十まで全てキチンと聞いていましたよ。……で、なんでしたっけ?」
などと、そんな言葉で返した。
その様子を隣で見ていたセンは、
大量に沸いたウジ虫でも見るような目で、
(ひぃぃ……やべぇ、こいつ……終わってる……外見だけじゃなく、中身ともども、正式に終わっている……)
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