23話 破格の胆力。

 23話 破格の胆力。


 センの資質を、一ミリも理解できなかった佐田倉。


 まるで、

 『知らない国』の『札束の山』を見た気分。


 『きっとすごいのだろう』という事までは予測できても、

 『どのくらいの価値があるのか』を正式に把握することは出来ない。

 そんな不可思議な感覚。




「答えろ! 閃! 今! 俺に! 何をした!」




 動揺している佐田倉に、

 センは、


「……いや……えっと……ごめんなさい。わかんないっす……」


「はぁ?!」


「なんか、こう……『こうしたら、出来るなぁ』って、頭の中で、イメージが浮かんだ気はしたんすけど……そのイメージを、意識が処理していた頃には、すでに、あんたの体を投げていて、ほんと、もう、意味わかんない……っていう……この感覚、わかる?」


「……わかるわけねぇだろ……ナニ言ってんだ、お前」


「ですよねぇ」


 などと言いながら、

 センは、自分の両手を見つめる。


(マジで……なんで……)


 必死になって頭をまわす。

 けど、答えは出てこない。


 『体が勝手に動いた』というワケでもなかった。


 ――『こうしたい』と願う『理想』に、

   『体』が100%の精度で応えてくれた――


 これが、最も正確な表現。


「……なんなんだ……お前……お前は……」


 動揺が止まらない佐田倉。


 ――と、そこで、




「なにしてんねん!」




 センの背後から、

 声が響いた。


 その瞬間、佐田倉をはじめ、

 この場にいた、親衛隊の面々の顔に、

 強烈な緊張が走った。


 全員が、いっせいに、訓練された軍人みたいに、

 ビシっと姿勢を正して『気を付け』をする。



 声の主――『薬宮トコ』は、

 肩で風を切りながら、

 ズンズンと速足で近づいてきて、


 セン、佐田倉、セン、佐田倉、

 と交互に睨みつけてから、

 佐田倉に視線をロックして、


「……佐田倉。とりあえず、今日は帰れ。あとで、親を交えて話しよ」


「お嬢……俺は、あの……」


「佐田倉!」


 トコの怒声に、

 佐田倉の体がピンと伸びる。


 トコは、走ってきたのか、

 軽く息を切らしていた。


 が、コンマ数秒の息継ぎだけで、

 流れるように、


「あんたらのおかげで、変な虫が寄ってこうへんのは、正直、メチャメチャありがたいと思っとる……けど、やりすぎは好かんって、ずっと言うてきたよなぁ、あぁん?!」


「……」


「閃は、アゲセンに言われて、あたしらの班に入っただけ。別に、こいつ自身は、なんもしてへん。それやのに、人を集めて、囲んで脅しつけるて……アホか、ごらぁあああああっっ!!」


 激昂しているトコに、

 センが、


「薬宮、ちょっと――」


 と、止めようとしたら、

 そこで、


「身内の話や! あんたは黙っとけぇ!」


 と、『佐田倉に対して上がったままのフルボリュームなテンション』を、

 『そのまま』ぶつけられて、

 普通にイラっとしたセンは、





「――てめぇが黙れ」





 底冷えする声で、

 トコをにらみつけるセン。


 そのあまりの迫力に、


「っ」


 トコは、一瞬、息を呑んだ。

 『とある事情』から、

 『胆力』にはかなりの自信があるトコだったが、

 しかし、

 センの圧力に対しては、

 普通に、心臓がグググっと揺らめいた。


(な……なんや、この圧力……こ、このあたしを……なんで、男子高校生ごときが……)


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