16話 華麗なる佐田倉家。

 16話 華麗なる佐田倉家。


「言いたいことがあるなら、含みをもたせたりせず、一字一句正確に言葉を並べてもらえません?」


 と、完全に『ケンカを売りつくしていくスタイル』で、

 品の良い『夜露死苦(よろしく)な上等』をかましていくセン。


 センを取り囲んでいるコワモテ全員が、

 この瞬間、センに対して、

 『こいつ、違う意味でヤベぇな』

 と、素直な感想を抱く。


 もちろん、それにも気づいているセン。

 だが、引かない。


 プライドが高すぎる人間に共通することだが、

 『ボーダー』を理解している分、

 ただのバカよりも、基本的にタチが悪い。


 『譲(ゆず)れない』というヤバさ。

 それは、基本的に、悲劇しか招かない。


「K5の面々と、ハーレム状態で遠足など、ありえない。当日は、絶対に休め。これは、男同士の約束だ。もし、約束を破ったら、お前を殺す」


 たんたんと、しかし、バリバリの殺気を向けてくる佐田倉。

 口にしている内容は、正直、バカっぽいのだが、

 しかし、その表情におふざけ要素は一ミリもなかった。


 佐田倉は、ガッチガチな『本気の全力』で、

 センに対して、『遠足当日の病欠』を要求している。


 センは、相手が『本気で言っている』と分かった上で、

 しかし、それでも、


「……ははっ、すげぇこと言ってくるねぇ」


 半笑いで『煽っていくスタイル』を崩さず、


「あんたら、先輩だろ? だったら、この学校が、主体性遠足をバカみたいに重視しているってことは知っているよな? 休んだら、単位を落として留年するんだよ。わかってる? 休めるわけ――」


「ウチの家は、紅院家ほどじゃないが、それなりに名家だ。旧大名(きゅうだいみょう)華族(かぞく)で、戦後も財を繋ぐことが出来た数少ない生き残り。不動産と金融で、それなりに潤っている。紅院と比べたら、カスみたいなものだが、しかし、少なくとも、お前ひとりの面倒を見るくらい、ワケはない」


「……」


「残りの学費はすべて出そう。卒業後の面倒もみてやる。さすがに、東大は無理だが、早慶ならば、間違いなく合格させてやれる」


 そこまで言い切ってから、

 佐田倉は、

 グっと、そのイカつい顔を近づけてきて、


「だから……当日は休め」


 それほどまでの『覚悟』を見せられたら、

 さすがのセンも、普通に怯(ひる)む。


 高すぎるプライドのおかげで『ビビる』ということはないが、

 『相手の覚悟』に圧倒されることはありうる。


 『やべぇな、こいつ……』と引いてしまうことは、普通にありえるのだ。



「……たかが、一日、遠足に行くってだけで、なんで、そんなことまで……」



「親衛隊だからさ」


 佐田倉は、まっすぐな目で、

 そう言い切る。


 そこに『お遊び』の要素は微塵もない。

 まるで、『重要な戦場を任された高級将校』のように、

 徹底して『本気の覚悟』を見せつけてくる。


「ギャグで言っているわけじゃない。遊びじゃないんだ。気合の足りていない『アイドルの追っかけ』みたいな、『推しに彼氏が出来たとたん、手のひら返して、ネットで叩き始めるような連中』とはワケが違うんだよ。覚悟が違うんだ」

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