30話 清々しい最低の対応。


 30話 清々しい最低の対応。


「外敵が存在しないがゆえに、比較的、根性なしの割合が高く、懐郷病(かいきょうびょう)にかかる率がダントツだと聞いたこともある……いらないな、そんなカス……」


 実際のところ、第一アルファからの漂流者は、

 他の世界からの漂流者よりも、

 ホームシックになる者の割合が多い。


 他の世界からの漂流者の場合、

 第二アルファの方が、あらゆる面で、

 『あきらかに、自分がいた世界』よりも優れているため、

 『こっちで頑張って生きていきたい』と思う者が少なくない。


 もちろん、中には、帰りたがるものもいるが、

 その割合は10人に一人ぐらい。

 対して、第一アルファ人のホームシック率は90%を超えている。


 第一アルファから漂流してくるものは極めて珍しく、

 『その他の世界からの漂流者』の数と比べると圧倒的に少ないため、

 比較する『統計』としては間違いなく不完全ではあるが、

 しかし、大きな差があることは間違いない。


「……勧誘に成功したとしても、元の世界に帰られたんじゃ、意味がない……」


 リフレクションの彼は、ぶつぶつと、つぶやきつつ、

 センを睨み、


「――ちなみに、この世界に留まる気はあるのか? 一応、望めば、永住することもできなくないが?」


 明らかに、ぶっきらぼうになった口調。

 そんな『リフレクションの彼』からの問いかけに対し、

 センは、迷うことなく、


「ぃ、いや、普通に帰るけど? この、『超異世界』って感じの雰囲気には、いくつか、惹かれるところもあるが……しかし、俺には、第一アルファでやらなければいけないことも多々あるし、それに――」


 と、色々、ぐだぐだ言っているセンの言葉を、


「――ちっ……」


 強めの舌打ちでさえぎると、


「勧誘して損した……時間を返せ。こっちもヒマじゃないんだ」


 さらにもう一度舌打ちをしてから、

 吐き捨てるようにそう言うと、

 『リフレクションの彼』は、センに背を向けて去っていった。

 いっそ、清々しい態度。

 雑味のない、最低の対応。


 もはや、一度たりとも、こちらを振り返ることなく、

 グングンと、速足でさっていく背中。


 その足音すら聞こえなくなり、

 だいぶ世界が静かになったところで、

 センは、


「……末端がアレじゃあ、組織の程度が知れるなぁ……リーダーの名前がふざけていると、構成員の性格もねじ曲がってしまうんだろうなぁ……名前って大事だなぁ」


 などと、辛辣なことをつぶやいてから、

 黒木に視線を向けてから、


「ま、しかし、かなり有益な情報はいただけたな。……お前も聞いていただろう、黒木。どうやら、この世界の主神は、この俺らしいぜ。やはりな。そうだと思っていたぜ。昔から、俺は、気品の格が違った」


 謎の気恥ずかしさから、情緒が錯綜しているセンは、まくしたてるように、


「そこのメガネ人間さん、頭が高いですよ、跪きなさい。ここは、神の御前である」


 照れ隠し全開のエキセントリックなボケをかましていくセンに対し、


「土下座しながら、クツでも舐めましょうか?」


 クールな表情で、冷静に痛快なカウンターを決め込んでいくメガネ人間さん。


 そのテクニカルな反撃に、

 『ゼノリカの王』と同姓同名の彼は、


「……やめてください、おねがいします、社会的に死んでしまいます」


 深々と丁寧に頭を下げた。

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