78話 頭が高い。
78話 頭が高い。
「戦場で生きてきた私に、ガキの脅しが通じるとでも? まともな殺気の一つも込められていない威迫に価値などない」
――もし、仮に、センに、『本当にナバイアを殺す気』があったのなら、
情動ではなく、動物的本能で、『純粋な危機感』に届いた可能性がある、
が、しかし、残念ながら、センにナバイアを殺す気はなかったので、
このような、『お互いが譲れない』という、厄介な状態に陥ってしまった。
――この緊張状態をブチ破ったのは、
センエースの狂信者であった。
ズガバンッ!!
と、破裂音が響いて、
その直後、
穴のあいた天上から、純粋な殺気でコーティングされた女が降ってきた。
――彼女『久剣(くつるぎ)一那(かずな)』は、
ダイナミックに登場すると同時、
ナバイアの頭をワシ掴んで、
「王の御前である。頭が高い」
バガァンッッ!
と、テーブルに思いっきりたたきつけた。
普通に額が割れて、血がダラダラと流れる。
当たり前のように、一瞬で気絶して、
浅い呼吸だけを繰り返す血濡れ人形となったナバイア。
ちなみに、カズナは、いっさい、手加減していない。
自分の王を愚弄したカスに手心など加えるはずもなし。
ナバイアはたまたま、偶然、奇跡的に生きのこっただけで、
運命力がほんの少しでも劣っていれば、普通に死んでいた。
そんな彼を横目に、
ゾーヤは、冷静に、スマホで、
『300人委員会専属の救急隊員』を呼び出す。
どうやら万一にそなえ、近くで待機していたようで、
救急隊員は、呼び出しから数秒で登場すると、
即座に、ナバイアをタンカに乗せて、この部屋から運び出していった。
一連の流れを黙ってみていたゾーヤは、
部屋が静かになったタイミングで、
カズナを強い目で睨みつけて、
「……自分が何をしたか、わかっているの?」
そう問いかけた。
上司筆頭格からの問いかけに対し、
しかし、カズナは、まったく配下らしからぬ態度で、
「命の王に対し、あまりにも不敬が過ぎるカスを粛清した。それ以上でもそれ以下でもない」
極めて雑に、そう応えた。
『センと出会うまでの彼女』だったら、
ゾーヤに対し、このような態度はありえなかった。
カズナの直属上司は『紅院正義』だが、
『所属』となると、一応『300人委員会』であり、
その『立場』は、
『末端の構成員(構成員の中では最高格)』であるがゆえ、
『300人委員会の重要人物』であるゾーヤに、
『ナメた態度』をとることは、
普通の会社でたとえると、
『係長』が『理事』にタメ口で挑むようなもの。
――なかなかの暴挙である。
「……これ、普通に大事件よ? あなたの首一つでどうにかなる問題じゃ――」
と、静かに叱りつけてくるゾーヤに、
カズナは、冷めた目で、
「本物の地獄を見てきた今の私が、貴様ごときの言葉に、特別な意を介することはない。ただただ耳障りなだけ。――もし、まだ、ごちゃごちゃぬかすのなら、貴様の頭も叩き割るぞ、アレマップ・ゾーヤ」
カズナの言葉を受けて、
ゾーヤは理解した。
(……たんなる虚勢ではない……なんと冷たい目……)
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