105話 田畑さんは超一流。


 105話 田畑さんは超一流。


 ミレーは、上気した頬と、トロけた視線でもって、


「……そっちが悪い……」


 と、小さく、そんなことを言いながら、

 かわいらしく唇をとがらせた。


 その仕草・言動の全般が、

 セン的に、ドストライク。


 紅院美麗の『女性』としての部分は、

 センの『タイプ』にガッツリとハマり切っている。


 豊かな胸、きめ細やかな肌、スラっと伸びた肢体、

 我の強そうな切れ長の目、艶やかな長い髪。



 ――『見た目のタイプ』という点だけで言えば、

 セン的には、紅院美麗こそがK5の中で最強。


 茶柱罪華の見た目も、セン的に『相当タイプ』なのだが、

 『中身シカトで、100%見た目だけで、どちらか一人を選んでください』

 と言われた場合、センは、紅院の方を選ぶ。


 それほどの美女にグイグイこられて、

 センの頭は、普通に沸騰しかけていた。


 もし、センが生粋の『モンスター童貞脳』でなければ、

 ここで『初体験』がおっぱじまっていたことだろう。


「ちょっ……ちょっと、用事を思い出したっ」


 もちろん用事など思い出していないが、

 しかし、チキン童貞のセンは、

 紅院の視界の範囲内にいることが耐えられなくなり、

 脱兎の勢いでプールから上がり、

 そのまま、一度も振り返ることなく浴槽を後にした。




 ★




 浴室を抜けて、脱衣所に出ると、

 タオルを持っているに田畑さんに出迎えられた。


「お疲れ様でした」


「ええ、ほんとに」


 皮肉を口にしつつ、

 センは、田畑さんの手からタオルを受け取る。


 吸水性がハンパないバスタオルなので、

 体の方は、一拭きで一撃。

 短髪なので、ササっと撫でればOK。


 水着は、特殊撥水加工を受けているのか、

 そもそも、ほぼ濡れていなかった。


「上着は必要でしょうか?」


 そう言いながら、田畑さんがパンパンと手を鳴らすと、

 スタンバイしていたスタッフが、

 5人ほどゾロゾロと登場して、


「必要であれば、お好きな上着をお選びください」


 田畑さんのセリフを合図に、

 5人は、両手に持っている様々なスタイルの上着をセンに見せつけてくる。


「……じゃあ、そのジンベイっぽいので」


 選んだのは、紺の甚兵衛羽織。

 ゆったりとしたスタイルで、非常に風通しがいい。

 背中には軽く和柄が仕込まれており、

 肌ざわりが、非常に心地いい。


「すばらしい! 非常に似合っております!」


「紅院とは『比べるのも失礼』なレベルの『極まって破格の接待力』だが……しかし、ジンベイを羽織っただけで褒められても、バカにされているとしか思えないんで、やめてもらえます?」


「その謙虚さには感服いたします!」


「……すごいな。最初から一貫して『本気で言っている』ように聞こえる。あんたの『お世辞力』は抜群だ。おそらく世界最高クラスだろう」


「お褒めにあずかり光栄ですが、しかし、私は『お世辞が下手なことで名をはせている』ほどの正直者で、過去に、何度か、正直すぎることが原因で大きな失敗もしておりまして……そのため、以降は、『本当に思った褒め言葉』しか口にしないようになったのです」


「……こっちこそ感服するよ。あんたは、本当に一流だ」


 思わず、深いタメ息をつきながら、

 センはそうつぶやいた。


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