14話 定まった人類の方向性。
14話 定まった人類の方向性。
「センエース……貴様に勝つために……これだけ準備を整えてきた……それでも勝てないのは……なぜだ……」
「俺が積んできたモノが、お前の準備を超えていた。疑問を抱くまでもない話。小学生の算数のドリルよりもシンプルな理論だ」
たんたんと話すセン。
そんな彼に、イブは、
「貴様は……異常だ……」
最後にそう言い残して目を閉じた。
観念したイブを、
センは、図虚空で喰らい尽くす。
その瞬間、
世界中のまぶたの裏から、
センとイブの姿が消えた。
もちろん、苦痛も綺麗サッパリ消えている。
全人類が、理解する。
自分たちは救われた。
この星に存在するすべての人間が、
センエースに救われた。
――その理解に届くと同時、
人類の感情は、一つにまとまった。
完全なる一つではない。
そんな概念は存在しないから。
しかし、方向性が一つに定まることはありえる。
『センエースに対する畏敬』
感謝すべき人、
おそろしい人、
などなど、ベクトル的には、色々と思うところはあるだろうが、
しかし、心に生まれた『畏敬の念』だけは共通していた。
この世の誰もが、
『センエース』という概念の全部を、おそれうやまう。
『人類全員が、束になってかかっても敵わない化け物』
その化け物が、
『信じられないほどの高潔さでもって、自分達を守ってくれる』
という『理解』に届く。
その理解は、『深い安心感』に直結する。
これまで感じたことのない安らぎを感じた。
胸の中に、『支え』ができた気がした。
これまでは、『一人で生きてきた』と、みなが、ずっと思っていた。
家族や友人など、他者とのかかわりはあるものの、
しかし、結局のところ『人間は一人だ』と思ってきた。
それは事実であり、その事実は、今も変わりないのだけれど、
しかし、彼・彼女たちは思う。
――自分は一人ではなくなった。
目を閉じれば、心の中にヒーローがいる。
すでに、イブの魔法は消えているので、
まぶたの裏に、明確な映像として映し出されることはないけれど、
心には焼き付いている。
ボロボロになりながら、
自分たちの苦痛と絶望をすべて背負って、
必死に、健気に、献身的に、
全身全霊で救いの手を差し伸べてくれたヒーローの雄姿。
胸に抱いた心の『支え』は、
今日を頑張りぬく理由になった。
明日と向き合う動機になりえた。
不安定だった人類は、今日、この時をもって、
絶対的な精神的支柱を得た。
人類の明日は、おどろくほど美しく輝いていた。
★
――祭りになった。
公式メディアも、もちろん盛大に騒いだが、
ネットの世界が爆発的なお祭り騒ぎの様相を呈する。
『センエースがガチで人類の王様だった件』
『奇跡を中心とした話術』で民衆を扇動するワケでも、
『悟ったような真理』で死後の救いを説くわけでもない。
純粋な『肉体言語』で人類を救い散らかしたヒーロー。
無教養でも一発で分かるその明快さが、
やはり、センエース教の一番の醍醐味だと言えよう。
もはや、センエースは完全な教祖だった。
もちろん、中には、センエースのことを『対エイリアン用の最終決戦兵器』としてしか見ない者も、いないことはないが、しかし、大半の者は、センエースのことを神格化させて、崇め、奉るようになった。
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