59話 過剰なヤンデレの押し付け合い。


 59話 過剰なヤンデレの押し付け合い。


「あたしにてめぇを殺すことは出来ないだろう。というか、する気もない。あんたを叩き潰す役目は、ヒーローに任せる。ただ、全部を押し付ける気はない。あたしにできる全部を使って命がけのエールを送る」


「もう、魔力もつきて、からっぽのお前に、何ができる?」


「器の一つになれる。不遜でも自惚れでもなく、あたしは……世界一のヒーローから愛されている! その誇りを! 気概を! 覚悟を! 全部! こめて!!」


 燃え上がるように、

 彼女のコアオーラが膨らんでいく。

 いつしか、ドロドロにとけて、

 美しい粒子になっていく。


 その粒子は、センの中へと注ぎ込まれる。


 その途中で、センの耳に、確かに届いた。


(――託したからね)


 重たい言葉が、センの中心に刻まれる。

 全身に力がみなぎってくる。

 呼吸がしやすくなった。

 両手両足も完全になり視界も良好。


 そんなセンを見て、オメガは、


「くく……何が器だ。ようするに、ポケ○ンでいうところの『みかづ○のまい』をかましただけじゃねぇか……」


 ――みかづ○のまい『じぶんはひんしになるが、ひかえのポケ○ンをぜんかいする』。


「それで? 『俺に手も足もでないアタッカー』が復活して……それで、どうなる? なんの意味もない。また、一瞬でボコられるだけ。本当に無意味」


 その言葉に、

 ヒーローが応える。


「……ああ、自分でもそう思うよ。託されても……俺ごときに、何ができるとも思えねぇ」


「じゃあ、どうする? そのまま死ぬか?」


「そうするわけにもいかねぇ。俺の中には、あいつらが刻まれている……死ぬときは、俺だけを消し去る……あいつらには……死んでほしくねぇ」


「狂愛のアリア・ギアスは、本当に気色が悪いな。お互いが、お互いに、過剰なヤンデレを押し付け合う、おぞましさの展覧会。そのとことんまで腐ったなれ合い……今日、この場で、完全に消滅させてやる」


 吐き捨てるようにそう言うと、

 オメガは、瞬間移動で、センの背後にまわった。


 そして、背骨をへし折ろうと掌底を繰り出す。


「少しだけ……見えるようになった……」


 ユラリと、風に揺れる柳のように、

 センは、オメガの掌底を回避した。


 そのムーブを目の当たりにしたオメガは、キュっと眉間にしわをよせる。


「見えるようになった? バカが。今までは、この程度も、見えなかったというだけの話。なにをスーパーポジティブにとらえてんだ、アホウが」


 叫びながら、オメガはギアをあげて加速し、

 センの顔面に、一発をぶちこむ。


 その一撃を避けることは出来ず、

 無様に吹っ飛ぶセン。


「……ごほっ……」


 凶悪な一撃を叩き込まれて吐血する。

 そのザマを見て、


「女にケツを拭いてもらっていながら、またすぐに、HPが赤ゲージへと元通り。みじめだな! 女が風俗で稼いできた金を奪ってパチンコにいくカスみたいだ」


「さすがに、そこまではひどくないと思うが……まあ、でも、このまま終わってしまった場合、シルエット的には変わらないのかもな」

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