19話 諦めることを諦めたヒーローが諦めるほどの極地。


 19話 諦めることを諦めたヒーローが諦めるほどの極地。


 当人たちから、直接、コトの真相を聞き出す、

 というのは、だいぶ、ハードルが高すぎた。


 『彼女たちを怒らせたらヤバい』ということぐらい、

 まともな人間なら、誰だって知っている。


 ゆえに、『実際のところは、どうなんだ? あの噂は本当なのか?』という膠着状態が打破されることはなかった。


 『今にも爆発しそうな好奇心だけがくすぶり続ける』という、

 ある意味で最高に楽しい『じれったい時間』の中心で、

 センは、


(……一周回って、どうでもよくなってきたな……)


 悟りの境地に至っていた。

 あまりにウザすぎる現状に対し、

 心が『抗うこと』をやめてしまった。


 あきらめることを諦めたヒーローが、

 さすがに諦めてしまうほどの地獄。

 それが、センにとっての現状。

 哀しいリアル。


(もう、どうでもいい。どうせ、一週間後にはリセットされる。一週間だけ耐えればいいんだ。楽勝、楽勝。ていうか、ぬるいね。ぬるすぎると言ってもいいね。俺を誰だと思ってんだって話だぜ。俺だぞ? アウターゴッドとガチでケンカする気でいる、無敵のセンエースさんだぞ? この程度の面倒事なんてワケないね。なんなら、もうちょっと、地獄を上乗せしてくれてもいいぐらいだね)


 などと、心の中で、ゴリゴリに強がっていると、

 ヨグシャドーがテレパシーで、


(さすがだ、センエース。頼もしいぞ。さすが、貴様の器は、格が違った。では、さらに条件を追加していこうか。倍プッシュだ)




(見栄をはりました! うそつきました! 本当は辛くて泣きそうです! もう、ほんと死にそうなんです! だから、お願いですから、勘弁してください!! おねがいしますっっっ!!)




 全力で、前言を撤回して真摯な謝罪を決め込んでいくセン。

 心と魂が一杯一杯で、もはや、明日も見えなくなっている。


(あー、もう! なんで、俺ばっかり、こんな目に! つらいつらいつらいつらいつらぁあああああああああい!! お願いだから、難易度下げてぇええええ! ノーマルモードやイージーモードにしてとか贅沢は言わないから、せめて、普通のナイトメアモードに戻してぇええ! フルメタル・ナイトメア・マストダイはもうイヤぁああああ!)


(なるほど、それが、いわゆる『絶対に押すなよ』というやつだな)


(違う違う違う違う違ぁあああう!)


 ヨグシャドーのクロスカウンターに対し、

 全力で慌てふためくセン。


 そんな、波乱万丈の心中を察して、隣席のトコが話かけてきた。


 ――ちなみに、教室到着と同時、

 K5は、センの周囲の席をムリヤリ奪い取った。

 誰も、特に抵抗などしなかったので、

 非常にアッサリとコトは運んだ。


「セン……ジブン、今、ものすごい顔色になっとるけど、大丈夫か? 気分わるいんやったら横になるか? 膝枕したろか?」


 などと、『決して大声ではないけれど教室全体に伝わる微妙な音量』で話しかけてきたトコに、センは渋い顔を向けて、


「大丈夫ですので、落ち着いてください、薬宮さん」


 極めて冷静に、そんな言葉をかえす。


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