12話 たぶん……


 12話 たぶん……



「結果を出さず、『努力だけ』を自慢するようになったら終わりだとは思っているが……しかし、誤認は流石に勘弁できねぇ。俺は、ずっと、誰よりも踏ん張って生きてきた……そこだけは……主上様とやらにも負けねぇよ」


 そのセリフに対し、

 アダムは、激ギレの顔になり、


「主上様をコピーしただけのゴミが、ふざけたことをほざくな。主上様が積んできた『覚悟』を侮蔑するなど……それは、これまでに、貴様が犯してきた、どの罪よりも重たい」


 猛獣のように、

 センをズタズタに切り裂いた。


 細切れになったセンは、

 残っている意識の全てを、

 『愚痴』に費やしていた。


(……俺は頑張っただろ……俺はずっと、頑張ってきた。絶対に、誰よりも頑張ってきた……なのに、なんだ、これ……なんで、俺はいつもこうなんだ……頑張って、頑張って、頑張って……その結果が、いつもコレだ……)


 ブチブチと、

 『なんの益にもならない愚痴』を、

 ただひたすらに、


(もういやだ……これまでの人生でも、何度か愚痴ってきたけど……もう、本当にイヤだ……この人生、本当に辛い……『いいことが何もなかった』とは言わないけど、いくらなんでも、ずっと辛すぎる……『辛いこと』と『いい事』のバランスが、あまりにも合ってなさすぎる……辛い、辛い、辛いっ――)


 愚痴っている途中で、意識が途切れた。

 けれど、

 まるで、引きずりだされるように、

 センの肉体は、復活する。


 アダムの前に引きずりだされる。


 もはや、戦意など残っていないのに、

 当たり前のように、脅威の自己治癒能力が、

 センの肉体にムチを打つ。


「……これは、もはや、最上級の拷問だな……」


 ボソっと、つぶやいてから、

 センは、その場で座り込む。


 まるで、ヘソを曲げたガキのように、そっぽを向いて、


「殺せ、殺せ! 飽きるまで殺せ! 飽きても殺せ! 好きにしろ! 知らん。もう知らん。お前、俺の話聞かんし……つぅか、俺が何をしたってんだ。俺は誰も殺してねぇだろ。ちょっとはしゃいだだけで、別に、たいした被害とかは出てねぇだろ。大会の運営スタッフを殴ったのは悪かったよ。反省はしている。望むなら土下座してやるよ。九華の連中を殴ったのも反省はしている。けど、別に死んでねぇだろ。お前らの組織なら、ウルトラな回復魔法の使い手ぐらい、何人もいるだろ? 俺の攻撃で受けた傷ぐらい、普通に、秒で完全回復するだろうが。俺の罪なんて、せいぜい、傷害罪と公務執行妨害ぐらいだろ。そのぐらいで、なんで、ここまで拷問うけなきゃいけぇんだ。俺、この時点で、何回、殺されてんだよ。死んでないってだけで、ずっと、死ぬほど痛かったぞ、ボケが。ふざけんな」


「……み、みっともない……」


 ひたすらに愚痴り続けるセンに対し、

 アダムは、心底からの侮蔑の表情を見せて、


「いい加減にしろ! 主上様に似た顔で、無様を晒し続けるな! 耐えがたい!」


 心底からの嫌悪でもって、


「さすがに、『本物と同じ気高さ』を持てとは言わないが……主上様のパチモンを名乗るのであれば、せめて、ほんの少しでもプライドを持て、クソムシがぁ……」


 そこで、センは、

 精気のない目でアダムを見て、


「……もし……」


 ボソボソと、


「……もし、お前の言う『主上様』とやらが……もし、もし、もし、仮に……俺の『オリジナル』みたいな感じだったとしたら……」


 小さな声で、






「……たぶん、大したヤツじゃねぇぞ……」






 そうつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る