73話 モテモテの天童と、いつだって孤高のセン。


 73話 モテモテの天童と、いつだって孤高のセン。


「何、話してたん?」


 センが教室に入って、

 自分の席についたタイミングで、


 『天童の後ろの席に座っている作楽トコ』が、

 天童に声をかけていた。


 その光景を見ながら、センは、


(作楽トコ……やっぱり、薬宮トコに似ている……が……うん……違うな……何がどうとは言えんけど……)


 感覚だけで『違う』と思った。

 何が違うのか、本当にわからない。

 ただ、感じる。

 『違う』と、感じてしまう。


 そんな不思議な感覚に溺れていると、


「話?」


「さっき、くっさい媚びヅラしたビッチ丸出しのゲロ女と話してたやん。なに、あの雑巾の搾りかすみたいな女」


「……ああ、高瀬の事か」


「高瀬って言うんや。へぇ。ふぅん。どんな御関係?」


「新兵だ。ウチの部隊に配属されたらしい。その挨拶を受けた」


「……なーんや」


「なんだとは、なんだ?」


「べつに~」


 言いながら、作楽(さくら)は、ボールペンの先で、天童の背中をつつく。


「少尉、私の背中に穴をあけようとするのを今すぐやめたまえ。これは命令だ」


「あれぇ、知らへんの? 演習外では命令聞く必要ないねんで? 無知やなぁ」


 などとイチャイチャしている両者を見て、

 センは、


(神聖な校内で、何を乳繰り合っとるんだ、あのバカ二匹は……許せないな……これは、さすがに、許すわけにはいかない。あのバカ二匹を駆除するのは、社会倫理的に見ても正解な気がする)


 などとDQN力を全開にさせていく。


 その後も、両者のイチャイチャは続く。

 周囲の人間は、たいてい『見ないふりをする』といった感じの、『高校生的大人な対応』をしているが、中には、セン以上の『すごい目で両者を睨んでいる者』もいる。


(あのすごい目で、天童を睨んでいるやつ……えっと……『一城』か。このクラスのカースト最上位のイケメン……)


 クラスメイトの名前など、ほとんど『うろ覚え』だが、

 しかし、天童や一城など、目立っているヤツの名前は流石に憶えている。


 とはいえ、下の名前までは当然把握していない。

 だって、男の子だもん。


(一城って、もしかして、作楽を狙っているのか? ……ほむほむ。しかし、作楽のあの様子を見る限り、一城に可能性はないだろう。……イケメンは嫌いだが、気の毒な男は、別に嫌いじゃない。お前は死ななくていいぞ、一城)


 などと思っていると、

 その一城が、このクラスの中でも『可愛い方』に分類される女子数名に話しかけられており、その光景を見たセンは、普通に表情をゆがませて、


(撤回だ、一城。お前は、やはり、死ぬべき男だった)


 といった感じの、

 『あまりにも不毛な学校生活』を送るセンさんだった。



 ★



 ――その日の昼休み、

 センは、黙々と、スマホでweb小説を読みつつ、添加物の多そうなパンをかじっていた。


 そんなセンとは対照的に、

 モテ男の天童さんは、

 トイメンに作楽トコ、

 背後に佐々波恋というフォーメーションで、

 優雅に食事を楽しんでいた。


 佐々波恋は、シャツのボタンを三つ目まで開けて、深い谷間を惜しげもなく晒している、妙に手足の長い褐色肌のハイスペック女子高生。

 鋭い八重歯を煌かせて、ニタニタとした笑顔が特徴的な美少女。



(ん……やっぱり、佐々波は茶柱に似ている……しかし、あいつも、また、少し違う……何がどうとは言えんけど……)



 などと思っていると、

 佐々波は、

 挑発するように、ロングの艶やかな黒髪をかきあげながら、

 天童に対し、


「愛らしい後輩が、こんなにエロ可愛く慕っているんすから、もっと、こう、抱きしめる的な対応で迎えてほしいっす。はい、というわけで、やりなおし」


 さぁ抱き締めろと言わんばかりに両手を広げている、そのクソ面倒くさい後輩に、


「佐々波。要件を言え。端的に、短く。そして、すぐに消え失せろ」


 天童は、荒めの口調で返す。

 口調も態度も粗野だが、

 しかし、本気で突き放しているようには見えなかった。


(天童の野郎……口では佐々波を否定していながら、実際のところは、普通に興奮してんじゃねぇか? 硬派を気取っているくせに、時々、ちらちらと、佐々波の谷間を見ていやがる……ダセェ男だ。死ねばいいのに)

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