72話 天童、お前はダメだ。何がどうとは言えんが。


 72話 天童、お前はダメだ。何がどうとは言えんが。


(……今、『ちゅうさ』って言ったか? 『ちゅうさ』ってなんだ……? 天童って、下の名前、『ちゅうさ』だっけ? 違うかった気がするんだが……)


 と、軽く疑問を感じつつ、

 センは、視線を進路方向に戻して、

 二人に対して無関心を装う。


 すると、その透明感のある美少女は、

 過剰なほどのニコニコ顔のまま、


「昨日は凄かったです。本当に、本当に凄かったです」


 興奮した様子で、


「ぁ、申し遅れました。高瀬麻友二等兵です」


 などという挨拶をかましてきた。

 それを受けて、センは、


(……ああ、なるほど。階級があるゲームのフレンドか……)


 と、あっさり、両者の関係を見抜いた。


(ガン〇ム系のゲームかな……それとも、リアル戦争系……)


 などと、またもや、どうでもいいことを考えていると、

 天童が、


「高瀬後輩。演習外では、軍人然とした態度を可能な限り抑え、民間人として振舞うのが暗黙の了解だと聞かされていな――」


 と、そこまで言った時点で、天童は、渋い顔をして、


「――ああ、そうか、新兵戦後に、俺が言わなければいけなかったのか。ちっ。バカバカしいミスを……」


 などと、厳めしい口調と顔付きで、そんなことをいう。


 そんな天童を、横目でチラ見しつつ、

 センは、


(……おやおや、天童さん。あなた、もしかして、ミリオタさんですか? いけませんねぇ。ミリオタはモテませんことよ……あ、でも、こいつ、すでに、学校で有名な美少女二人を囲っていて、今も、顔面偏差値の高い美少女に話しかけられている……ちっ……死ねばいいのに)


 センが、非モテ男子的嫌悪感を爆発させていると、


 ついに我慢ができなくなったヨグシャドーが、テレパシーで、


(貴様にも、嫁がたくさんいるだろう。モテ方で言えば、貴様の方が上だと思うが?)


 と、ツッコんできたので、センは渋い顔で、


(あんなものはモテているとは言わない。選択肢がなかっただけの話だ。仮に、俺以外にも、俺と同じように、あいつらを助けたやつがいて、そいつの方が俺よりもイケメンだったら、俺は選ばれてねぇよ)


(なんだ、その謎の卑屈さは)


(卑屈になんかなってねぇ。事実を言っているだけだ)


 センが全力で卑屈になっている間も、

 高瀬と天童の会話は進んでいて、


「俺の失態だ。許せ」


 と、天童が、頭を下げると、


「いえ、中佐は……先輩は何も悪くありません」


 そこで、高瀬はさらにニコっと笑い、


「でも、やっぱり、先輩は素敵ですね。大した事ではなくとも、自分がミスをしたと思ったら、私みたいな末端の末端にもキチンと謝罪をする……すごく人間が大きいです」


「世辞も過ぎれば胃もたれするだけだ。その辺にしておけ。俺はおだてられても、木に登らない」


(ほう、それはいい心がけだ。そのマインドだけは、少しだけ評価してやろう。プラス1点だ)


 謎の上から目線で、センが、天童の殊勝さを認めていると、

 高瀬が、さらに、笑顔の質量を高めて、


「あははっ。その表現、とっても面白いです。流石、先輩」


 そんな黄色い声援を浴びせたりしたものだから、

 センは、心の中で、


(撤回だ、天童。やはり、お前はダメだ。何がどうとは言えんけど、とにかくダメだ)


 砂でも噛んだような顔をして、

 身勝手に、醜く、天童を呪うセン。

 そのザマは、どこまでも人間的であった。

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