71話 基本的には卑屈な閃光。


 71話 基本的には卑屈な閃光。


(いやぁ、しかし、こいつ、ほんと、ガタイいいな……こいつと比べたら、俺のモヤシ感が際立つな……腹立たしい。どっかいってほしいねぇ。死んでほしいとまでは思わないけど、俺の横には立たないでもらいたい)


 別に、『でかいマッチョ』になりたいわけではないが、

 『高身長でゴリゴリの肉体』を見せつけられると、

 普通に『自分ってダメな体だなぁ』と卑屈になってしまう。


 この奇妙な劣等感は、この場のセンに限った話ではなく、

 男ならば、銭湯やプールなどでは、よくみられる一般現象。


(つぅか、こいつ、よくみたら、左手首に十字架をまいていやがる。カッコつけやがって。嫌いだねぇ。調子に乗っているイケメンは、全員、死んでいいねぇ。この手で殺そうとは思わんけど、事故等で死んでくれる分には、全然、問題ないねぇ)


 天童久寿男は、『イケメン』と呼べるほどの整った顔はしていないが、

 しかし、センの視点だと、

 『最低限以上の顔』をしている『高身長の男』は全員、

 妬み・嫉みの対象なのである。


(仮に、こいつが、俺の目の前で、助けを求めてきても、俺は、スルーするだろうねぇ。俺が聖人だったら、あるいは助ける可能性もゼロではないが、しかし、残念ながら、俺は聖人ではなく、ただの量産型汎用一般人だからねぇ)


 などと、クソだせぇコトを思いつつも、

 センは、そこで、


(……つぅか、この十字架……ウチの寮生、みんな、つけているような……)


 ぬるりと思い出してきた記憶。

 勘違いなどではなく、事実として、

 センが住んでいる寮に在籍している学生は、

 大概、手首にロザリオを巻いている。


(あれ? もしかして、あの寮って、カトリックしか入れない的な? ……じゃあ、なんで、俺は入れているんだ? 俺は、バリバリの無宗教家なんだが……)


 などと思っていると、




 『仙草学園前~ 仙草学園前~』




 電車が止まって、ドアが開いた。


 朝のラッシュ時にだけ流れる駅員のアナウンスを聞き流しながら、

 センは、軽くアクビをはさみつつ、

 電車を降りて、学校へと向かう。


 天童と並んで歩くのは、なんか気まずくて、イヤだったので、

 軽く早足で駅の中を練り歩く。


 すると、元々早足の天童と、速度がちょうどかぶってしまい、

 意図せず、仲良く同じテンポで歩く二人が完成する。


(どわぁ、歩調がカブったぁ)


 そのウザすぎる現象を前に、

 センは、テンポを変調させるべきか悩んだが、


(ここで速度を上げたら、対抗しているように見える。とはいえ、遅くしたら、日和ったように見えなくもない……)


 などと、クソどうでもいいことに悩んでいると、

 そこで、



「おはようございます。中佐」



 後方から声が響いた。

 あきらかに『自分(セン)に向けられている声』ではなかったが、

 しかし、センは反射的に視線を向けてしまう。


 ――そこには、

 ふわふわとした雰囲気の、

 いわゆる『男子人気が高そうな女子』がニコニコ顔を天童に向けていた。


 一定以上に整った顔と透明感。

 パっと見の印象では、抜け目のないアイドルといったところ。


(……今、『ちゅうさ』って言ったか? 『ちゅうさ』ってなんだ……? 天童って、下の名前、『ちゅうさ』だっけ? 違うかった気がするんだが……)

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