74話 また、なにかがくる……


 74話 また、なにかがくる……


(天童の野郎……口では佐々波を否定していながら、実際のところは、普通に興奮してんじゃねぇか? 硬派を気取っているくせに、時々、ちらちらと、佐々波の谷間を見ていやがる……ダセェ男だ。死ねばいいのに)


 などと、『この上なくダセェ男』が、心の中で文句を垂れ流す。


 その後も、佐々波と天童のイチャイチャは続いたため、

 耐えきれなくなったセンは、


(……きつい、きつい……死ねばいいのに)


 と、心の中で悪態をつきながら教室を出ていった。


 孤高になれる静かな場所を求めて、校内を練り歩いていると、

 途中、階段の踊り場で、『二人の少女』が、

 深刻そうな顔で、向かい合って話していた。


 別に盗み聞きするつもりはなかったのだが、

 隣を通った際に、たまたま、


「……もう、飛びたくない……戦場、怖い……闘いたくない……」


「せっかく、中学を生き抜いたんだから、最後まで頑張ろうよ」


「でも、大学院まで含めたら、あと9年も残っているんだよ……そこまで生き残れるとは、正直、思えない……ああ……死にたくない……」


 などと、話しているのが聞こえて、センは、


(……女子高生の会話とは思えないシリアス具合だな……まるで赤紙で徴兵されたかのような悲壮感……なんというか……この学校、変な会話しているやつ多いな……)


 そこで、チラっと横目で、彼女たちの手首を見てみると、


(で、変な会話をしているやつは、決まって、あの十字架を手首にまいてんだよなぁ……)


 違和感を覚えたものの、

 しかし、特別、彼女たちに踏み込む理由もなかったので、

 センは独りになれる場所を求めて歩き続けた。



 ★



 その日の放課後、

 学校を出て、駅へと向かう途中で、センは、


(つぅか、ヨグさんよぉ……そろそろ、『元の世界に戻れる条件』とやらを教えてくれねぇ? 俺、今、普通に、ダルい高校生活を送っているだけなんだけど? まさか、このダルい生活を続けるのが条件とか言わないよな? ――どうせ、あれだろ? なんか、『ヤバめの敵を倒せ』とか、そういうのが条件なんだろ? てか、そうであってほしいんだけど。俺的に、そういうの以外の、面倒なお使いゲーとかはしたくないんだけど)


 などと、ブツブツつぶやくセンに、

 しかし、ヨグシャドーは、


(……)


 強い意志を感じるシカトを貫いた。

 そのウザい態度に、センはムっとしたが、

 しかし、いくら怒りを抱いたところで、

 『ヨグシャドーのベクトルをどうこうすることはできない』、

 ということは理解できているため、


「はぁ」


 と、タメ息をつくだけにとどまる。

 と、その時だった。



「………………ん?」



 何かに気づいて、心を整えた。


(なんか……くるな……)


 『感じたこと』はそのまま形になる。


 センの視界がグルリとまわり、

 それまで見えていた景色とはまったく違う光景が広がる。


(おやおや……空間魔法で閉じ込められちゃったよ……GOOかな? それとも、アウターゴッド……)


 などと思っていると、

 視線の先で、時空の裂け目が出来て、

 その奥から、




「――この世界における一般人の捕獲に成功。これより脳を解剖し、データを採集する。解析キットを転送してくれ」




 『紫がかった銀』という、なかなか見ない色の肌をした男が立っていた。

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