98話 『ここではないどこか』の向こう側。


 98話 『ここではないどこか』の向こう側。


(このへちゃむくれは、一体誰だ? なぜ、私は、この目つきの悪いバカそうなガキに……天童以上の『主役性』を感じている? 意味が分からない。道理が通っていない)


 無限にも思える圧縮された時間の中で、

 ソルは、ジっと、センエースを観察していた。


 センエースの全部が、なぜだか、輝いて見える。

 その拳に、『重さ』を感じる。


 ギニャリと、ソルの体を削るセンの拳。

 最後の最後まで、ソルの感覚は圧縮されていた。


 センの拳が、自身の体をえぐっている。

 そう認識している中でも、ソルは、


(信じられない重さ……なんだ、これは……何をどうしたら、ここまでの重さを会得できる? こんな重さは、この世に存在しない……存在してはいけない質量……)


 さらに、ソルの肉体をエグっていくセンの拳。

 どこまでも深く、

 ソルの奥へ、奥へ、奥へと食い込んでいく。


(いかん……この質量……私が……起きる……っ!!)


 センの拳によって、

 ソルの意識は飛んだ。


 大きなダメージを受けたからではない。

 まるで、プログラムがコマンド入力を受け付けたように、

 ソルの肉体は、『反応』を示したのである。


 ソルの口が、無意識の中で、


「――『ソルの進化』――成功。『真・ここではないどこか』への道が開きました。『ソルのコアオーラ』に『コードゲート』が導入されました」


 謎の言葉を口にする。

 この場にいる誰も、

 ソルを含めて、誰も、

 ソルが口にしたことの意味を理解することができない。


 意味を理解する必要などなかった。

 結果は何も変わらない。




「ぶはぁ」




 意識を取り戻したソルは、

 黒い血を吐き出しながら、


「げほっ、ごほっ……はぁ、はぁ……」


 大きく深呼吸をしている。

 酸素を取り込んでいるのかどうかは分からない。

 とにかく、ソルは、

 必死になって『深呼吸』をする。


「……私を……強制的に進化させた……? 誰の意志で……なんのために……」


 困惑しているソル。

 その正面にいるセンと天童は、もっと困惑している。


 センは、


「何が何だか、一生分からんがぁ! とりあえず、死ねぇええええ!!」


 さらにオーラと魔力を練り上げた拳で、

 ソルの全部をぶち壊そうとした――が、


「ドリームオーラ!!」


 まだまだ困惑の中にいるソルだったが、

 無意識のうちに、魔法のバリアを張っていた。


 上位のGOOだったら誰でも使えるようなただのバリア魔法。

 なんの強化も受けていない、ただの障壁。


 しかし、センの拳はあっさりとはじかれる。


「ちぃ! クソみたいに硬ぇ障壁を張りやがって!!」


 どうにか破壊しようと、


「ナメんなよ、カスがぁ! こちとら、『永続的に究極超神化7を使ってくるような変態』と20年も闘い続けてきたんじゃあ! 今の俺にぃい! 勝てるやつは一人もいねぇええええ!!」


 全身全霊でプライドを叫びながら、

 何度も、何度も、何度も、拳を突き出すセン。


 そんな脳死乱舞を経たことで、

 センは、気付いた。

 気づいてしまった。



「あかん! これ、ムリなやつ! エグい! こいつの中心、スーパーセンエースより強い! 詰んだぁ!」

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