73話 虹。


 73話 虹。




「幻爆の剣翼をも掌握してみせるか……田中トウシ……貴様は素晴らしい」




 突如出現した虹色の女神。

 その破格のオーラを前にして、トウシは、ただただビビり散らかす。


 人間ごときにどうにかできる領域ではないと即座に理解。


(対処しようのない、本物の絶望……)


 ドクドクと、命の全てが脈動している。

 勇気が根こそぎ殺される。

 思考という概念ごと殺されたような気さえした。


 純度の高い絶望に苛まれるトウシ。


 そんなトウシに、

 彼女はたんたんと、



「私は、アウターゴッドの頂点。混沌を支配する神。全にして一、一にして全なる者。つまりは真理の具現。神々の頂点、虚空の王ヨグ=ソトースである」



 名乗りをあげる。

 静かで、荘厳で、神々しい名乗りであった。


「ヨグ……ソトース……最高位の……アウターゴッド……ぃ、いやいや……」


 思わず、反射的に、後退りしながら、

 トウシは、


(まさか、これほどまでとは……あかん……どうしようもない……ソンキーの力を使っても……相手にならん……)


 ソンキーはとんでもない力を有しているが、

 直線型・脳筋型で、搦め手の精度は高くない。

 ソンキーも天才型ではあるので、

 『搦め手型を小器用に使いまわすこと』も不可能ではない、

 が、しかし、『不可能ではない』という程度の評価が精々。


 まっすぐに立ち回ることしかできないソンキーは、

 『自分よりも強い者』に対して打てる手が少ない。


(完全に詰んどる……くぅ……ぅううう……)


 などと、トウシが普通にパニックになっていると、

 そこで、ヨグは、右手をすぅっと、横に薙いだ。


 すると、直後、

 周囲にいた天才集団が、声をあげることもなく、

 バタッっと、一斉に意識を失った。


「……ぇ……ぇえ?!」


 何が起こったか分からずに混乱しているトウシに、


「この世に存在する命……邪魔だから、全て殺した」


「……え、なに言うてんの、自分……」


 混乱が止まらない。

 ヨグの言葉は、あまりにも狂いすぎていた。


 狂気が先行して真意に届かない。

 何がなんだかわからない地獄が延々に地獄車。


「……田中トウシ。貴様は本当に素晴らしい。能力の高さだけで言えば、貴様は、舞い散る閃光を大幅に超えている。貴様は天才すぎる。そこらのアウターゴッドでは、もはや太刀打ちできない。貴様の飛びぬけた天才性に敬意を表し……ここからは、私自ら、相手をしてやろう」


「ご勘弁を……願えたら……大変、嬉しくて……恐縮に存じまする……はい……」


 どうにか、この状況を回避しようと、

 へりくだった言葉を並べて揃えるトウシ。


 戦意は存在しない。

 戦っても勝てないから。

 それが理解できないほどアホではないから。


 しかし、ヨグは許さない。

 けっして、トウシを逃がさない。


「さあ、やろう。田中トウシ。貴様は、この私に、どこまで抗える?」


 そう言いながら、

 瞬間移動でトウシの背後を取るヨグ。


 トウシは反応できなかったが、


「――くそったれがぁあああ!!!」


 ソンキーは、ギリギリのところで反応を示した。

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