72話 倍返しだ!


 72話 倍返しだ!


(とんでもなく膨大なエネルギー量の魔法攻撃……これは……剣翼型……属性は『幻影』と『切断』、狙いは首、ルーンは『爆発』……問題なのは、ターゲッティングの範囲……これは、まさか……全人類が標的? ……ふ、ふざけたマネを……)


 ぎゅっと奥歯をかみしめて、

 トウシは、自分の深部へと踏み込んでいく。


(時間がない。発射されるまであと数秒……)


 一般人なら対処のしようがなく、

 『これはもう、ダメかもわからんね』と、

 高次の諦観に飲まれるところだろうが、

 トウシは、そうならない。


(ホーミングはマイクロ波媒体――MCLOS誘導方式……いや、それはフェイク……実際には、半自律型――基本的にはプログラムに従って動く形式――ズレを補正する制御装置は単純なギミック――軽油はGISネットワーク――デジタルマイクロホワイトホールの位置を特定――いける……っ)


 彼のスペックは、いつだって、常軌を逸している。

 演算力も胆力も精神力も、

 すべてが、ワケの分からない領域にある超人。


 それが、タナカ・イス・トウシ。

 その異次元なスペックは、

 いつだって、常識に対して、怒涛の反旗を翻す。




「よっしゃぁああ! 奪い取ったぁ! ワシをナメんなよ、カスがぁ!」




 権限を奪い取ると、

 そのまま、トウシは、


「どこのだれか知らんけどぉお! 位置だけは特定できとるぞ! やられる前にやり返す! 倍返しじゃぁあああ!」


 『己の魔力とオーラ』という『ノシ』をつけた上で、

 トウシは、『幻爆の剣翼』を、どこかの『使い手』に返品する。


 いきなり騒ぎ出したトウシに対し、

 周囲にいる天才軍団が、ギョっとした顔をしている。


 トウシは気にすることなく、


(ん? くそ……アンノウンになってもうた……殺せたかどうかわからへん……ぶっちゃけ、手ごたえはあんまりない……おそらく回避された……二回目があるかもしれんな……)


 次の攻撃がくることも考え、

 トウシは、対応策を考えようとした――その時、



「……ん?」



 ゾクリと、

 全身を、深みのある悪寒がつつみこむ。


 魂魄が爆音の警戒音を鳴らしている。

 携帯ドラゴンも震えている。

 鳴くことすら出来ず、

 ただただ、ビビリ散らかしている。


「……ぇ、ちょ……なに、これ……」


 体の全て、細胞の全部が、芯から震えて未来を見失う。

 意志を刺し殺す恐怖。

 勇気を黙らせる絶望。


(や、やばい……ぁ、あかん……)


 知性を介さない本物の根源的危機感の中で、

 トウシは、ブルブルと震えている。


 ――そんな彼の前に、

 『彼女』が姿をあらわす。






「幻爆の剣翼をも掌握してみせるか……田中トウシ……貴様は素晴らしい」






 それは、人型の姿をとった化け物だった。

 虹色に発光している妙な服を纏いし、

 ゾっとするほど美しい女。 


「ぁ……あっ……」


 頭がバグりそうになるほどの恐怖感の底で、

 トウシは、正確に、彼女を理解した。

 人の身では絶対に届かない超高次の存在。

 概念そのものがバグっている女神。

 混沌の中心。

 虹色の最果て。

 虚空そのものとでもいうべき、命の頂点。


(これは……あかん……むちゃくちゃや……)

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