44話 無敵ではないバリア。


 44話 無敵ではないバリア。


「やっぱりな……見えるぞ……揺らいでいる呼吸が……」


 何度も繰り返してきた。

 だから、少しだけ見える。


 最初は何もみえなかった。

 何も分からなかった。

 なんだってそう。

 センの初期能力はいつだって平均以下。


 ――けれど、


「そのバリアを突破することだけを考えて、20年も積んできた。『見えるようになる』には十分な数字だ」


 英語とか、古文とか、

 そういうマクロの視点でも、

 『突破するための流れ』は変わらない。


 コツコツと、基礎をかためていく。

 地味で過酷なベイビーステップを積み重ねる。

 近道などない。

 他の人間なら『才能』という近道を経由することも可能なのだが、

 センにはそれができない。



 だからこそ、たどり着いた世界がある。

 才能に頼れない人間が、

 それでも、強く『未来』を渇望した時に生まれる無限の可能性。


「そのバリアには、致命的な欠点がある!」


「……ほう。なんだ?」


「無敵『では』ないってことだよ!」


 そう言いながら、

 センは、さらに閃拳を叩き込む。


 剣の翼をはためかせて、

 高速で世界をあっちこっちしながら、


「アホほど硬いのは事実! 間違いなく、ドリームオーラの上位互換! けど、それだけで、それ以上の特別な何かってわけじゃねぇ!」


 踏み込んで加速する。

 軸足に心を込めて、

 握りしめた拳に想いをのせる。


「耐久力の限界はある。急所も存在する。どんなに硬い物質でも、やり方を知っていれば、普通の半分以下の労力で砕くことも可能。その前提があれば、あとは知識と技術だけ。その知識と技術を、20年かけて磨いてきた。20年……宇宙の歴史という視点で見れば、驚くほどちっぽけだが……『一人の人間が、たった一つのことに集中してきた時間』という視点で見ると、とんでもない数字だ。俺が積んできた覚悟を……教えてやるよ」


 覚悟を叫んでいる間も、

 センは、ずっと、拳をふるい続けていた。


 急所を探しながら、

 硬度の限界をはかっていく。


 繰り返すうちに、

 だんだんと、

 ソルの『無敵バリア』に対する理解が深まってくる。


 見えてくる。

 輪郭が、

 パッケージが、

 その秀逸な全容が。


「天才なら、1の行動で10の結果をえるんだろう。おそらく、スマートに、一撃で急所をみつけてぶっこわすんだろう。……けど、凡人の俺に、それはできねぇ。泥臭く、みっともなく、無様に、這いつくばいながら、1000を試して、1の答えを見つけようともがくしかねぇ」


 自分自身の才能のなさを痛感する。

 いつだって、センは、自分の無能さを嘆いている。


 もっと才能があれば、

 と、そんな、ないものねだりをしながらも、

 歯をくいしばって、地味な歩みを、一歩一歩積み重ねてきた。


 その無様な一歩一歩が、


 ――ビシリッ……





 と、無敵バリアに亀裂を入れる。


 1年では無理だった。

 5年では足りなかった。

 10年では歯がたたなかった。

 15年かけても、呼吸は見えてこなかった。


 ――20年という月日を積んだことで、

 センは、ようやく、この無敵バリアとの向き合い方を知った。

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