29話 殴られたら殴り返す。


 29話 殴られたら殴り返す。


 しびれを切らしたテンプレヤンキー2号が、

 センの胸倉をつかみ上げて、


「なに、シカトしてんだ、おい。5000円だ。はやく、出せよ。非常にリーズナブルだろうが! 小学校高学年レベルの小遣いで充分賄える額だろうが!」



 と、強めに詰めてきたので、

 センは、やれやれといった感じで、


「金はない。財布を持ってきていないから」


 と、素直に、白状する。

 実際、今のセンは財布を持っていなかった。

 服だけ着替えて、そのまま出てきただけ。


「嘘つけ、ボケ。じゃあ、その場で飛んでみろ」


(わー、テンプレ~)


 ヤンキーのテンプレ発言を面白がったセンは、

 言われた通り、その場で、ピョンピョンと飛んでみた。


 もちろん、小銭の音などしないわけだが、

 その様子を見ていたテンプレヤンキー2号が、



「いや、飛ばなくていいから。つぅか、飛ぶな、鬱陶しい。とまれ、ばか」



 センを停止させると、センがはいているズボンのポケットを、バンバンバンっと、上から殴るような粗さで確認して、


「こいつ、マジで金もってねぇわ」


「なに、おまえ、ビンボー?」


「んー、あー……ビンボーの定義にもよるけど……まあ、少なくとも、金持ちではないかなぁ……」


「最低限のカネすらもってねぇくせに、絡まれてんじゃねぇよ、ナメんなよ」


 と、あまりにもナメ散らかしたことをぬかしてくるテンプレヤンキー1号。


 センは、彼の発言に対し、つい、普通に、


「ははっ」


 と、笑ってしまう。


「ジブン、なかなかおもろいやないかい」


 と、テンプレヤンキー1号に対して、本音の賞賛を向けるセン。

 セン的には、ガチで、普通の賞賛だったのだが、

 その行動を、煽りと受け取ったテンプレヤンキー1号は、

 グっと、眉間のしわを強めて、


「ガチで殺すぞ、クソガキ」


 と、語気を強めて迫ってくる。


「殺すって言葉を使っていいのは、殺される覚悟があるヤツだけだ」


 などと、さらに挑発的な態度を続けるセンに、

 テンプレヤンキー1号は激昂し、


 握りしめた拳を、ためらわずに、センの顔面にたたきつけた。


「あー、痛いねぇ」


 無論、楽勝で避けられたが、

 あえて、テンプレヤンキー1号の拳を受け止めたセンは、


「さて、それじゃあ、殴っていいのは殴られる覚悟のあるやつだけだ、という世界の真理を教えてあげようか」


 と言いつつ、テンプレヤンキー1号の前で拳を握りしめるセン。


「俺は感情に任せて暴れ散らかしたりはしない。が、しかし、殴られたら殴り返す。それが俺の流儀だ。というわけで、しっかりと歯を食いしばれよ。気を抜いていたら、頭が揺れすぎて気絶するぞ」


「あぁ?! なに、調子こいたことほざいてんだ、マジで、殺すぞ!!」


 さらに語気を強めて怒りを叫ぶテンプレヤンキー1号に、

 センは、


「俺の前で『覚悟の足りない言葉』を使い続けたらどうなるか、思い知れ」


 そう言ってから、

 握りしめた拳をテンプレヤンキー1号の顎に向けて放とうとした、

 その時、



「……ん?」



 強い気配を感じて、センは天を見上げた。

 すると、空には、大きなジオメトリが刻まれていた。


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