66話 舞い散る閃光のインパルス。

 66話 舞い散る閃光のインパルス。


「貴様も、そこの女どもも、全員死ぬ。それでもいいか?」


「ああ、別にいいよ。俺が負けた時は、好きにしろ」


 その発言に対し、トコが、


「いや、ちょっ、待て! 何考えてんねん! あほか、お前!」


「うるせぇ。どうせ、お前は俺を殺さないだろう。お前は、完全にラリっている。何があろうと、お前は俺を殺さない。俺も、お前は殺せない。お前を殺せば、きっと、俺は、俺でなくなる。それだけは、何があっても許容できねぇ。――となれば、盟約などあってないようなもの」


 そう言いながら、

 センは、ゆっくりと、

 ロイガーとの距離を詰め、


 『手を伸ばせば届く距離』まで近づくと、


 そこで、スっと、武を構えて、


「いくぞ、ロイガー。殺してやる」


 ハッキリと、そう宣言した。


 その言葉を受けて、

 ロイガーは、

 『やれやれ』といった顔で、深いため息をついてから、


「……もし、本当に、貴様が私を殺せたら、心の底から褒め称えてやるよ」


 そう言いながら、殺気をにじませるロイガー。


 そこでトコが、


「いや、だから、何をアホな事を! そんな無意味なコトやらせるワケ――」


 などと言いながら、二人の間に入ってこようとしたのだが、

 しかし、そこで、

 ロイガーは、


「うるさい、だまれ」


「ぅぐっ」


 呪縛の魔法を使って、トコの体を停止させる。

 ダメージを与えるたぐいの魔法ではない。

 単純に動けなくなっているだけ。


 ロイガーは、


「さて、それでは、はじめようか。愚かさの発表会を」


 呆れ交じりに、そう言ってから、

 センの頭を吹っ飛ばそうと、

 右腕を、スっと伸ばした。


 伸びの良いジャブ。

 目障りな虫けらを叩き潰す程度の拳。

 ただし、常人の目ではとらえられない速度。


 普通の人間であれば、

 瞬く間に、頭が吹っ飛んで終わりなのだが、

 しかし、








「――見えた……っ! だぁぁりゃぁああああああああああっっっ!!!」








 センはそう叫びながら、

 ロイガーの拳に、自分の体を丁寧に合わせる。

 神速の反応。


 研ぎ澄まされた神経が、

 完璧なる調和の奥底で、

 一斉にピカピカと光る。


 肉体が限界を超えて躍動する。

 『命の限界に挑戦している』と評すべき『脆弱な肉体』が、

 『深淵を覗き込むインパルス』によって、

 むりやり『可能性の向こう側』まで跳躍させられる。


 ギリギリッッ!

 と、命の軋む音が、世界に響き渡る。


 神経線維に武装された『すべての髄鞘』が、

 『もっと速く』と叫んでいる。

 ビリビリと震えて弾ける。



 ロイガーの視点ですら一瞬の出来事だった。



 グンッッっと、

 『螺旋に巻き込まれた』――

 と認識するよりもはやく、


「ぅああああああっっ!!」


 ロイガーの体は、

 右腕を軸として、

 地面に、


 ズガンッッ!!


 と、たたきつけられた!



「どぼほぇっっ!!」



 常識外れの衝撃に、

 吐血を余儀なくされるロイガー。


 ただ投げられたのではない。

 体内の気が逆流している。


 恐ろしく高次の体術。

 信じられない神業。


 当然のように、意識が持っていかれた。

 ロイガーの脳が、グラングランと揺れている。



 そこで、

 センは、

 トコに視線を向けて、



「薬宮、お前の携帯ドラゴンを、剣状にして、俺に渡すことは可能か?」



「ふぇ?! ……ぇ……ぇと……え……?」


 『センが、ロイガーを投げ飛ばした』という、

 何が何だかわからない現状に対し、

 絶賛、困惑中のトコは、

 センの言葉が、耳に入らないようで、

 ただただ、


「ぇ……なに……ぇ……どういう……」


 目を丸くしているばかり。

 現状、ロイガーが気絶したことで、

 呪縛の魔法から解放されているのだが、

 そんな事実に気を配る余裕すらない。


 それは、紅院たちも同じだった。


 この場にいる全員、

 センが何をしたか、理解できずに、

 ただただ『?』の渦中で溺れている。


 センは、スゥと息を吸って、


「薬宮ぁ! 携帯ドラゴンを剣にしてよこせ! 出来るのか、出来ないのか!」


 大声を出されて、

 トコは、一瞬、ビクっとする。


 脳まで響く大声のおかげで、

 どうにか、ほんの少しだけ正気を取り戻したトコは、


「……む、むり……あたし以外が使っても、魔力とか、オーラとかは使えん……ただの『よく切れる刃物』としてしか――」


「業物(わざもの)として使えるなら十分だ」


「いや、まったく十分ではないやろ! 相手はS級のGOO! 物理に対しては過剰な耐性がある。それは、さっき戦ってみて、よくわかった! 魔力のない『普通の刃物』では相手にならん!」


「いくら高位の神格といえど、物理に対して無敵ってワケじゃねぇ! そして、魔力は、所詮、サポート要素でしかない! 魔力があったほうが『通りやすい』のは確かだが、エネルギーを正しく運用すれば、『内気(ないき)の鳴動』だけでも、モンスターの外殻をブチ抜くことは可能。俺の技術があれば、なんとかいける! そんな気がする!」


 内容は理路整然としていて、

 実際のところ、言っていることは何も間違っていないのだが、

 しかし、それを口にした当の本人が、一番、

 自分の発言に対して懐疑的だった。


 なぜならば、『脳』を一切通していない『脊髄反射の発言』だったから。


 暴走しているアドレナリンが、血管を過剰収縮させて、

 一時的に、言語中枢を盛大にバグらせた。

 結果、『ウェルニッケ野に障害を抱えている患者』のように、

 認知を伴わない言葉を発してしまった。


 ――と、センは後に自己解釈することになるが、

 実際のところがどうなのかはサッパリ不明。


 現状は、あまりにも『不可解の質量』が錯綜しすぎている。


「俺なら、ただの刃物でも、ロイガーという不可能を殺せる! だから、さっさと、変形させて、よこせっっ!! ごちゃごちゃぬかすな、ためらうなぁああ!!!」


「は、はいっ!」


 強い口調で命じられたことで、

 トコは、反射的に、ヒドラを剣状にして、

 センに向かって投げ飛ばす。


 回転しながら飛んでくる剣を、

 ノールックで、バシっと、片手で受け止めると、

 クルクルっと、手の中で回転させながら、

 感触を確かめつつ、


「ふぅ……」


 その勢いのまま、精神を集中させる。


(生まれてこの方、一度も、剣を握ったことなどないのに……なんで、今、俺は、こんなにも、シックリとした感覚を覚えているんだろうねぇ……あと、俺は、なんで、魔力がどうとか、わかるんだ? もう、いろいろ、さっぱりだ……)


 自分に対する深い疑問を抱きつつも、

 センは、

 静かに呼吸を整えて、

 心身を一致させると、

 世界と調和しつつ、


 ゆったりと、




「――細転一閃(さいころいっせん)――」




 などと、

 テキトーに、頭に浮かんだ必殺技名をつぶやきながら、


 真一文字に、剣を薙いだ。


 シュンッ、


 と、小気味いい音が響き渡る。

 次元が裂けた気がした。


 そう思ったと同時、

 ロイガーの肉体が、


 バラバラバラッ……ッ!!


 と、サイコロステーキサイズの細切れになった。

 一瞬の出来事。

 センの刃は、わずかな抵抗すら許さず、

 ロイガーの全てを切り刻んだのだった。


 ――この上なく美しくバッラバラになったロイガーの肉体は、

 風に吹かれると、

 雪の結晶みたいに、

 スゥっと溶けていった。


 その様子を見ていたトコは、


「ころ……した……ぇぇ……うそぉ……なんで……ただ、刃物で切っただけで、GOOが、どうして……え、なんで……?」


 当たり前のパニックに陥っていたが、

 どうやら、頭の一部分だけは、冷静だったようで、


「ぁ、あっ! で、でも、蘇生するんやない?!」


 ロイガーが言っていた言葉を思い出し、

 自動蘇生することを恐れたが、

 しかし、



「――『中心』を殺したから、無理……こいつの魔カードに込められている蘇生魔法は、核ごと蘇生できるほど上等なモノじゃない」



「ぇ、なんで、そんなこと知っとるん……?」


「知っているワケじゃねぇよ……そんな気がするだけだ」


「気がするだけかい!」


「けど、たぶん、合っている……なんでか知らん……マジでわからん。俺は、なんで、そんな気がしているんだろう……なんで、こいつを、殺せたんだろう……」


 ブツブツ言いながら、

 センは、


「俺、思うんだけど……これ、たぶん、夢だよな? うん、夢だ……そうじゃなきゃおかしい……もう、いろいろおかしい」


 などとつぶやいていると、

 センは、


「……ぁっ……」


 ガクっと、

 その場に倒れこむ。


「えっっ、ちょぉっ?! ――だ、大丈夫かっ?!」


 かけよってきて、センを支えるトコ。


 センは、朦朧としながら、


「ほら……やっぱり夢だ……そろそろ目が覚める感じだ……その証拠に、フワァっと、意識が……遠く……」


 その言葉を最後に、

 カクンっと、気を失ったセン。


 ――単純な話。

 脳が『人の限界』をゆうに超えて、過剰に働きすぎたから、パンクした。

 ゆえに気絶した。

 それだけ。


「ちょっ……死んでへんやろな?! マナミ! 回復魔法! いそげ!」


 無意識のうちに、心と体と神経をすり減らし、

 限界を超えて摩耗しつした結果、

 糸の切れた人形みたいに昏睡するセン。


 ――はためには『楽勝』だったように見えるが、

 実際のところはそうじゃない。

 ロイガーとの対面において、センが、

 マイクロ単位のわずかなミスを、

 ほんの一つでも犯していたら、

 バラバラになっていたのは、

 ロイガーではなく、センの方だった。




【後書き】

強敵ロイガーを突破!

ファーストステージクリア、と言った感じ! 


もちろん、ここで終わりではなく、

この作品は、まだまだこれから盛り上がっていきます!


「面白い」「頑張れ」と思っていただけたなら、

フォローと、☆で評価していただければと思います!


ここまで読んでくださって、本当に感謝!!

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