65話 お前を殺す。

 65話 お前を殺す。


「エグすぎる……お前ら、キショすぎる……」


 センは、心底、しんどそうに、

 そう言ってから、


「これ以上、お前らと一緒にいたら、頭がバグりそうだ」


 吐き気を我慢している顔で、そう言いつつ、


「というわけで……」


 ――ギリッと、

 殺意のこもった目で、

 ロイガーを睨み、


「俺は、俺の頭を守るために……」


 ロイガーに対して、

 ハッキリと、



「――お前を殺す」



 そう言った。

 豪快に、迷いなく、まっすぐに。

 センは、殺気を垂れ流す。


 センの宣言を受けたロイガーは、

 アホを見る目で、センを睨み、



「……ん? なんだって?」



 と、どこぞのラブコメ主人公のようなオトボケをかまし、


「私を……どうするって? 悪いが、空耳に邪魔されて、いまいち、聞き取れなかった。まさか、貴様ごときが、私を殺すなどと言うはずもなし……というわけで、もう一度、大きな声で、ハッキリと言ってくれ。私を? どうするって?」



「お前を殺す」


 ハッキリと、

 そう宣言したセンに対し、

 ロイガーは、一度、ため息をついてから、


「……バカか、お前……」


 心の底からの言葉をつぶやき、

 その上で、


「自分が何を言っているか、わかっているか? いや、わかっていないだろうな。貴様は、私の狂気にあてられて、完全に発狂している」


「まだ発狂してねぇよ。怖くて、しんどくて、苦しくて、たまらねぇが……まだ、ギリギリのところで、正気を保っている」


「ならば、視点を見失うはずがない。……貴様が殺さなければいけない相手は、そこのイカれた女だろう? あきらかに、貴様は、恐怖の底で錯乱している」


「何度も言わすな、俺はまともだ。薬宮の狂気にあてられて、一瞬、バグりそうだったが、ギリギリのところで耐えた。まだ俺のSAN値は残っている。……しかし、このまま、こいつらと一緒にいたら、いい加減、バグりそうだから、早急に、お前を殺して、家に帰って、グッスリ寝ようと思う」


「……貴様のようなカスが、私を殺せるわけがないだろう」


「ああ、俺もそう思うよ」


「……やはり、錯乱しているようだな。自分で自分がどんな言動をしているか、理解できていない。現状が見えていない」


「ちゃんとわかっているさ。現状は、お前を殺さないと、いろいろマズいっていう、だいぶアグレッシブな瀬戸際。正直、めちゃくちゃ厳しい局面だが……しかし……」


 グっと両の拳を握りしめ、


「それでも……俺は叫び続けたい。自分のワガママと心中したい。無茶は承知。お前は強くて、俺は弱い。全部分かった上で……それでも……いや、だからこそ、俺は叫ぶんだろう、きっと、たぶん、おそらく」


 『特に意味のない言葉』を、

 ダラダラと並べ終えると、


 そこで、

 センは、

 胸を張り、


 堂々と、






「……ヒーロー見参……」






 覚悟を謳う。

 『最後まで抗い続ける』という意地を見せる。


 そんなセンに対し、

 ロイガーは、


「……本物のバカだな、こいつ……」


 心底しんどそうな顔で、本気の『呆れ』を垂れ流す。


「……まあ、どうしてもやりたいなら、別に遊んでやってもかまわないが……その場合、盟約は全てなかったことになる。貴様も、そこの女どもも、全員死ぬ。それでもいいか?」




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