67話 ナメた経歴。
67話 ナメた経歴。
――はためには『楽勝』だったように見えるが、
実際のところはそうじゃない。
センの肉体は、それを理解している。
脳の奥底も認識している。
だから、精神的にも、肉体的にも疲れ果ててしまった。
『体力と精神の限界』を遥かに超えて可動したのだから、
防衛本能が、慌ててスイッチを切るのは当然の話。
だが、そんな事情など知るよしもないトコは、
「マナミぃぃ! なにを呆けてんねん! ちゃっちゃと動けぇえええ!」
無様に、大慌てでパニクり散らかすばかりだった。
★
「――はっ……っ!」
ふいに、パっと目を覚ましたセンは、
「はぁ……はぁ……」
軽く息を荒くしつつ、
「……やっぱ、夢か……」
開口一番、そんなことを口にした。
だが、そんなセンの言葉に、
トコが、
「夢やないわ。バリバリの現実じゃい」
そう声をかけてきた。
反射的に視線を向けてみると、
『センが横になっているベッド』の隣で、
イスに腰かけているトコがいた。
「まあ、実際のところ、あたしも『あんたが、ロイガーを投げ飛ばした瞬間』くらいから、ずっと『あれ、あたし、夢見とんのやろか』と、『自分の正気度』や『現実の精度』を疑っとるところが、なきにしもあらずやけどれども」
「……」
寝ぼけまなこで呆けているセンに、
トコは続けて、
「一応、色々、精密検査とかして『器質的な別状はない。気絶しとるだけ』という結果が出とるから、そこまで心配はしてなかったけど……もしかしたら、このまま、永遠に起きへんのやないか、みたいな不安はあったから、まあ……うん……」
などと、ゴニョゴニョ言いながら、
トコは、イスから立ち上がり、
センの近くまで寄ってくると、
センの額に、手をあてて、
「熱とかもないな。気分は? 悪ぅないか?」
「気分は別に悪くないが……そんなことより、ここどこ?」
「ミレーん家(ち)の敷地内にある、客人用の離れ家」
「……どこの宮殿かと思ったら……これ、客人用の離れなんだ……やっぱ、紅院は、金持ちとしてのランクが違うな……」
センが目覚めたこの部屋は、とんでもなく広く、
過剰に豪華な調度品で整えられていた。
見上げれば、当たり前のように、でっかいシャンデリアが吊ってあって、
壁には、当然のように、ゴリゴリの暖炉が設置されている。
アホほどデカイ絵画に、ワケの分からん形状をしたツボ。
テーブルやイスも、すべて、ド級の金持ち感であふれている。
(札束に包まれている気分だ……)
嫌味ではなく、
ほんと、素直に、そんなことを思ったセン。
と、そこで、トコが、
「……で? ジブン、何者なん?」
と、直球の疑問を投げかけてきた。
「あんたが気絶しとる間に、いろいろ、あんたのことを調べてみたけど……おかしな点は、どこにもない。父親、母親、ともに公務員。普通の保育所、普通の公立小・中を経て、時空ヶ丘に、一般入試で普通に入学……なんや、この経歴。ナメてんのか?」
「なに一つナメてねぇだろ。抜群に正常だろうが」
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