68話 センエース。探偵さ。

 68話 センエース。探偵さ。


「なんや、この経歴。ナメてんのか?」


「なに一つナメてねぇだろ。抜群に正常だろうが」


「普通すぎると言うとんねん! モブみたいな経歴しくさって、どういうつもりや」


「モブなんだから、仕方ないだろ。自分の事を背景だとは思いたくないが、しかし、お前らみたいな『世界の中心にいる連中』の目には『背景としてしか映らない』ということは、ちゃんと自覚しているさ。俺は、お前らみたいな天上人とは違い、どこにでもいる、ただの平凡な一般人さ」


「平凡な一般人が、グレートオールドワンをサイコロステーキに出来ると思うか?」


「……まあ、出来んだろうなぁ……」


「ほな、あんたは一般人やない。QED」


「どんな証明問題にも、穴はあるもんさ」


 などと、どうでもいいことを言いながら、

 センはベッドから起き上がり、

 ストレッチをしながら、自分の体の状態を確かめる。


(……筋肉痛が酷いな……なんか、体中の、ワケ分からんところが、ビキビキと軋んでいる……)


 日常生活では絶対に使わない無数の筋肉に、

 多大な負荷をかけてしまったせいで、

 全身のいたるところが『斬新な悲鳴』を上げている。


(こういう細かい点からも分かる……昨日の『ロイガーを投げた俺の動き全般』は『今の俺の体に適した動きではなかった』ということが……)


 などと、センが、

 『自分自身の謎』に悩んでいると、

 トコが、


「ちなみに……どっか、体に異常とかあるか? 何かあるなら、どんな細かいことでもええから、教えてくれ」


「別にないさ……筋肉痛がウザいが、異常な痛みじゃないから、三日もすれば落ち着くだろう」


「ほうか……ほな、あらためて質問させてもらう。あんたは、ナニモンや?」


 その問いに対し、

 センは、間髪入れず、






「センエース。探偵さ」






 脊髄反射でそう答えた。

 そのあまりに不可解な回答に対し、

 トコは目を丸くして、


「え、探偵なん?」


「……気にするな。ただのテンプレだ。もっといえば、純粋にスベっただけだ」


 つい、ノリだけで発言してしまったことに対し、

 正式に謝罪しつつ、


「正直、自分でもよく分からん。格闘技なんかやったことないのは『この体の痛み』と『そもそもの貧弱さ』が、シッカリと証明してくれているのに、なぜか、俺の体は、まるで、『数千年単位の鍛錬』でも積んだみたいに、『命の壊し方』を、これ以上ないほど正確に熟知している……」


 『億』という単位の時間をかけて求め続けたのは、

 『命の壊し方』ではなく、

 『命の守り方』なのだが、

 今のセンに、そんな真理は理解しえない。


 ――センは、自分の両手をみつめながら、


「俺自身が一番教えてほしい。俺が何なのか……これまでの十数年、ずっと、ヒョロガリをやってきた俺が、どうして、バケモノを殺せたのか……」


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