45話 新しい領域。


 45話 新しい領域。


「命の限界まで、よく頑張った。貴様は、『人に許された最終地点』にまでたどり着いた。それは、他の誰にもできないこと。貴様だけが成した偉業。存分に誇るがいい。貴様は、間違いなく人の王だ」


 マイノグーラは、

 まっすぐに、センを賞賛してから、


「王として生まれ、王としての誇りを胸に抱き、王として気高く高潔に生き、王としての矜持(きょうじ)を保ったまま、王として死ぬ。下等種に許された幸福の中でそれ以上は存在しない。貴様ほど、幸福で幸運な人間は他にない。その喜びに打ち震えながら、安らかに死ぬがいい」


 そう言いながら、

 マイノグーラは、

 出力を上げて、

 センの懐に飛び込んできた。


 すさまじいエネルギーを感じた。

 そのエネルギーの余波に触れているだけで、全身が蒸発しそう。


 そんな中、

 センは、


「これが……壁か……」


 目の前にある壁を認知した。

 物理的な実態は存在しないが、

 しかし、ハッキリとした質量を感じた。


 不思議な感覚だった。

 おそろしく圧縮された時間の底で、

 センは、『自分の道を阻む壁』と向き合う。



「なぜだろう。この壁……見覚えがある……俺は、この壁を知っている」



 意識の中で、ソっと触れてみた。

 ひんやりと冷たくて、少しザラついている。

 もちろん、錯覚だったが、

 しかし、決して無価値な妄想ではない。


 質量を伴う錯覚は、

 センの中で、確かに存在している。


「幾度となく……俺は、この壁と向き合ってきた……」


 『記憶の海』に石が投げ込まれた。

 ポチャンと音をたてて、水面に無数の円を広げる。


 広がって、溶けて、混ざって、

 そうやって、自由になっていく命の輪。


「俺は、この壁を何度も破ってきた……そんな気がする……具体的な回数は分からないが……とにかく、たくさん……俺は、この壁を、超えてきたような……そんな気がする……謎のデジャブ……」


 『壊してきた壁の数』は、

 そのまま、センエースを支える器となって、魂の深部に刻まれる。


 それだけは、どれだけ奪い取ろうとしても無意味。

 刻み込まれた誇りは、中心の奥で、弾けて混ざる。


 濁って、揺らいで、またたいて、

 そうやって、命の輪郭は形成される。


 その強度は、ダイアモンドが裸足で逃げ出す硬さで、

 どこの何をもってきたとしても決して砕くことはできない。



「……知っている……分かるぞ……『お前』の殺し方……」



 どんなに厚くても、

 どんなに硬くても、

 『壊せない壁はない』と知っている。


 どうすれば壊せるか、

 ヒーローは知っている。


 誰にでも出来ることではない。

 かじりついてきた自分だからこそできる暴挙。



「見える……見えるぞ……俺の『先』が……」



 必死になって積み重ねてきたものが、

 また、一つ、実ろうとしている。


 折れることなく、必死になって、

 地獄という地獄を端から積んできた男の器に、

 また、一つ、命の水が注がれる。







「――真・究極超神化プラチナム――」






 たどり着いたのは、

 パチモンの最果て。


 プラチナムの向こう側に至ったセンは、


「――閃拳――」


 心を込めて『必死になって磨き上げてきた拳』を、

 外なる神に向かって放つ。



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