44話 人と神の間にある距離。


 44話 人と神の間にある距離。


「神とは言え『個』でしかない私と、人とは言え『王』である貴様……どちらが上か、試してみるのも、暇つぶしとしては悪くない」


 などと、遥かなる高みから言葉を降ろすマイノグーラに、

 センは、顎を上げて、奥歯をかみしめながら、


「ヒマと一緒に潰してやるよ。俺が背負っている荷物の重さをナメるなよ。このあまりに重すぎる塊を、底意地という袋につめて、力の限りブン回しながら、てめぇの顔面にたたきつけてやる」


 言葉をかわしあってから、

 ゆっくりと、両者は、『互いの距離』と向き合う。


 歩くような速度で、

 ゆるりと、ぬるりと、

 互いが、互いの全てをはかりあう。


 そんな、優しい時間も、ほんの数秒。


 最初に切り込んだのはマイノグーラ。


 ジャブの踏み込み。

 挨拶の一手。


 それに対し、センは、


(――見えねぇ――)


 普通に見失う。

 はやすぎて対処不可能。


 だが、それは意識上の話。

 気づけば、センは、


「――しっ!」


 体の軸をズラして、

 緊急反射のみで、

 マイノグーラのジャブを避け、

 そのまま、カウンターで、


「――閃拳――」


 磨きぬいてきた拳を突き出す。

 その拳は、マイノグーラの顔面に直線となったが、

 しかし、

 拳が鼻先に触れるか触れないかというギリギリのところで、


「エクセレント」


 時間が高度に圧縮されていた。

 センの耳に、マイノグーラの賞賛がハッキリと聞こえた。


 マイノグーラは、ニコリと微笑みながら、

 自身の鼻先をかすめたセンの拳を左手で掴むと、

 クンッ、とナナメ下に引っ張り込んで、


「うぉおっ!」


 軸をズラされて体勢が崩れたセン。

 そんなセンのこめかみに、

 マイノグーラは、右手の人差し指を、優しくあてて、


「バンッ」


 ささやくような声で、そうつぶやくと、

 直後、センの脳天に、『貫かれた衝撃』が駆け巡った。


 指銃の気弾が、

 センの頭蓋(ずがい)を震わせた。


 グラっと揺らめいて、視界がブレブレになる。

 飛びそうになる無意識の中で、

 センは、

 『マイノグーラに遊ばれている』と理解した。


(……ここまで差があるか……)


 気が遠くなった。

 覚悟を決めて立ち向かった結果、

 『おそろしく遠い』という現実が、より鮮明に見えただけ。


 現状は、間違いなく危機的状況下であるため、

 クティーラの『集団暴走方式』も発動している。

 ガタノトーアやゾスのパッシブも全部乗っている。


 ――それでも、遠い。遠すぎる。


 マイノグーラは、ニコリと微笑んで、


「――人の王よ。褒めてつかわす。貴様は、なかなか面白い命であった。よくぞ、人の身で、そこまでの高みに到ることができたな。誇っていい」


「……」


「貴様は、みごと『人と神の間にある壁』まではたどりついた。しかし、『人と神の間にある壁』は高く厚い。その壁までたどり着けたことは褒めてやる。しかし、その壁だけは絶対に超えられない。貴様の健闘は認めるが、しかし、そこが命の限界。そこから先にはいけない。行けてはいけない」


「……」


「命の限界まで、よく頑張った。貴様は、『人に許された最終地点』にまでたどり着いた。それは、他の誰にもできないこと。貴様だけが成した偉業。存分に誇るがいい。貴様は、間違いなく人の王だ」

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