39話 アウターゴッドの知性。


 39話 アウターゴッドの知性。


「これで、ルールは把握できたはずだ。さあ、打つぞ」


 そう言いながら、もう一度、軽く指をパチンと鳴らしたロイガー。


 すると、目の前に、巨大な将棋盤が出現する。

 普通の将棋盤がおままごとに見えてしまうほどの、

 頭おかしいサイズの、でっかい将棋盤。


 ここまで、バカでかいサイズの将棋盤になってくると、

 中央付近のコマを手で動かすのは難儀になるが、


「手で動かさなくとも、念じれば駒は動く。さあ、誰からくる?」


 かゆいところに手が届く神のシステム。

 そんな、無限将棋盤を見つつ、

 トウシは、ロイガーに対して、ボソっと、


「……ワシの頭にもインストールしてくれたら、時間つぶしでエキシビションをする必要もないんとちゃう?」


「貴様は、公式戦の相手だ。公式戦では、ルールを覚えるところからスタート」


「……ああ、そう……」


「それに、ただのヒマつぶしではない。ハンデのひとつだ。貴様に私の実力を見せてやる。そのぐらいのハンデを与えないと、ゲームにならない可能性があるからな」


「……なかなかの自信やのう」


「アウターゴッドをナメるなよ、人間。9×9の81マスしかない小将棋すら解析しきれない貴様らとは、頭の出来が違うんだ」


「……ほーう」


「ちなみに、どうだ? そろそろ、10分の1ぐらいはルールを把握できたか?」


「いや、まだ100分の1ぐらいや」


「くく……まあ、それが人間の限界だろう。もちろん、人間の中では、かなり優秀な方だがな。この短時間で、100分の1もルールを把握できるやつは、そういない」


「……お褒めにあずかり光栄やねぇ」


 などと、二人が会話をしている間、

 黒木が、K5の面々に、


「えっと……誰が最初にやりますか?」


 と、戸惑いながらも、一番バッターの選抜をしていた。

 紅院が、


「じゃあ、様子見の捨て駒として、私がいくわ。穴熊戦法で、時間だけでは稼ぐから、相手のクセとかを見抜いてくれると助かる」


 そんな彼女のセリフに対し、

 ロイガーが、ニタニタ笑いながら、


(飛びコマが、桂馬しかない小将棋感覚で物事を語るとは、笑止千万。無限将棋では、長距離の飛びコマも山ほどある。周囲をコマの壁で覆うのは、身動きが取れなくなるだけの愚策。一瞬で殺してやる)


 心の中で、そうつぶやきながら、

 ロイガーは、紅院との対局にのぞんだ。


 ――紅院美麗VS覚醒ロイガーのエキシビションは、静かにはじまった。


 触れなくとも、念じるだけで動くコマ。

 ちなみに、無限将棋特有のルールで、持ち時間は、常に5秒となっている。

 5秒以内にコマを動かさないと、その時点で敗北。

 考える時間は無いに等しい。


 紅院は、とにかく、王の守りだけを考える。

 攻める気は一切ない。

 ひたすらに守って、守って、守って……


 気づいた時には、


「詰みだ」


「……あっ……」


 普通に負けた。

 わずか数手。

 時間にして98秒。


 あまりにも早い決着だった。



「無限将棋は、実力が拮抗した者同士で闘うと、決着まで数年以上を必要とする、莫大な根気が必須のゲームだが、実力差がある場合、こうして、一瞬でケリがつく」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る