6話 マゾじゃないんだからね!


 6話 マゾじゃないんだからね!


「オメガレベルは、上がりすぎると、自我を失い、『命の醜い部分』が前面に出てしまうんですよね? 上昇させて大丈夫ですか?」


「正直、上げたくはねぇよ。二度と、あんな自分を晒したくはない」


 と、前提を口にした上で、


「……けど、人類終焉ループを終わらせるためには、限界を超えて強くなる必要がある。このループを終わらせるために倒す必要があるラスボス『クトゥルフ・オメガバスティオン』とやらは、おそらく、スーパーセンエース級……いや、さすがにそれはないかな。いや、わからんな。でも、もし、そうだった場合、当たり前だが『オメガレベル100』ごときじゃ、お話にならねぇ。図虚空を使ったとしても、せめて『1000』はないと、かすり傷の一つもつけられないだろう」


 自身の現状を、改めて確認しつつ、


「……『爆発的に上昇させてしまうと、ゲロ吐くほど大きな問題がある』ということは、永遠に忘れられないほど、魂の深部に、よぉく刻み込まれた。……だからこそ……」


 そこで、センは、図虚空にチップをくわせた。

 すると、


「ぉお……10上げるだけでも、けっこう、しんどいな……」


「まったくわからないのですが、オメガレベルが上がるのって、どういう感覚なんですか?」


「……図虚空の精神的負荷は、下に引きずられる感じだが……オメガレベルは、上に引っ張られる感じだ……」


「えーっと……ちょっと、難しいですねぇ」


「地に足がついていない感覚ってあるだろ? 気分が高揚しすぎて、自分で自分が制御できない感覚……それが、膨れ上がっていく感じだ。不防備な万能感、不安定な全能感……鬱陶しい贅肉にまみれていく感覚……フワフワしているのに、どんどん重くなる……正直、めちゃくちゃウザい感覚だ」


「お酒に酔っている、みたいな感じなんでしょうか?」


「知らんけど、たぶん、近い……のかな? まあ、『酔う』って言葉は、まあまあ適格だとは思う。図虚空の精神的負荷は、『耐えれば、どうにかなる』けど、オメガレベルは、『耐えようと頑張る気持ちを削いでくる』って感じかな。この二つを併用するのは……正直、かなり厳しそうだ」


 つぶやきつつ、

 センは、ためしに、図虚空のトリガーを引いてみた。

 精神的負荷を引き上げていく。

 その途中で気づく。


「ああ、キツいわ! やばい、やばい!」


 すぐに精神的負荷を解除する。

 ほんの数秒、ほんの数パーセント引き上げただけだが、

 大量の冷や汗をかいているセン。


「……これは、エグいな……相当な訓練を積まないと……まともに舞えねぇ……」


 それを理解すると、

 センの目に、

 グっ……と、

 『強い熱』が灯った。


 それに気づいた黒木は、


「……なんだか、『ここから大変そうだ』と理解した瞬間、あなたの体温が2~3度ほど上がったような気がしたんですが? 本当に変態ですね。そんなに苦しいのは楽しいですか? 理解できません」


「人をマゾあつかいするんじゃねぇよ。そういうんじゃねぇから。いや、マジで。『しんどいのが好き』なんじゃねぇ。『頑張らないといけない』という状況に適応するため、心がスイッチをいれた……それだけの話だ。熟練のマゾヒストみたいに、『しんどい状況を楽しんでいる』のとは、ワケが違う」

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