33話 繊細な間違い探し。

 33話 繊細な間違い探し。


「それでは、さっそく、発表するから、ちゃんと聞いてメモをとってね。まず、紅院さん達の班から」


 小場はそう言ってから、

 メモを片手に、名前を挙げていく。


 当たり前のように、

 今回も、センが、彼女たちのメンバーに選ばれた。


 一限目の倫理が、主体性遠足の話し合いに使われるのも全く同じ。

 ジャンケンで、トコが代表に選ばれるのも同じ。


(基本的な流れは同じ……ジャンケンという、運要素も、ほぼ同じ……流石に、誰がどの手を出したかまでは覚えていないが……『代表が誰になるか』という『結果』は完全に同じだ……まあ、ここに関しては、俺の出す手の如何(いかん)によって、結果が変わった可能性がなくもないが……)


 ――ここで、センは、

 自分がどうするべきかを考えた。


(さ、どうする? 前回、俺は、ここで、こいつらの『公正っぷり』を賞賛した。その結果として、多少は、打ち解けることができた……同じことをすべきか、それとも、違う手を打つべきか……)


 数秒悩んでから、


(……現状は、『間違い探し』をしているのだから、なるべく同じ手を打つべきか……)


 結論を出すと、

 センは、なるべく前回と同じになるよう、

 丁寧に言葉を選んでいく。


 結果的に、センは、彼女から、


「ジブン、なかなかおもろいやないか」


 と、お褒めの言葉をいただくことに成功した。



 ★



 ――その日の放課後、

 帰り支度を済ませたセンが、

 校舎の外に、一歩、足を踏み出したところで、



「閃一番(せんいちばん)だな」



 と、『上級生らしき男子生徒』に、

 そう声を掛けられ、

 センは、


「違います」


 と、

 とりあえず、前回を踏襲していく。


 なんだかんだあって、

 結局、ついていくことになったセンは、

 上級生の背中を横目に、心の中で、


(蓮手とアゲモが、他の人間に変わった以外は、ほぼ全て、前回と同じ……おそらく、気温や湿度なんかも同じなんだろう……つぅか、そういう部分に微妙な変化をつけられてもわかるわけねぇ……)


 そこから先も、違いはさほどなかった。

 少し悩んだものの、

 結果的にセンは、

 佐田倉を投げ飛ばし、

 トコと会話してから、

 その場を後にした。



 追いかけてきたトコと、軽く会話をして、

 紅院に呼ばれたトコが、センのもとを去った所で、

 センは、スマホを取り出し、

 久剣一那に電話をかける。


「今、大丈夫か? なにか『大事な仕事中』とかなら、あとでかけなおすが」


『この電話よりも大事な用件など、この世に存在しません』


「……いや、あると思うが……」


 と、つぶやいてから。


「まあいい。とりあえず、報告会と行こう。こっちの状況だが、二人ほど――」


 と、状況を伝えようとしたところで、

 カズナが、


『お待ちください。場所を用意してありますので、直接会って、会議をいたしましょう』


「いや、別に電話で――」


『だめです』


「……はい……」




 ★




 カズナが用意していたタクシーに運ばれて、

 センは、紅院家の近くにある喫茶店にやってきた。


 清潔感があって、開放的な、

 情緒ある、落ち着いた店。


 ようするには、茶柱に連れていかれた喫茶店である。


(上流階級に属する者は、話をするとき、ここを利用しないといけない決まりでもあるのか?)


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