32話 オバセン、登場。

 32話 オバセン、登場。


「あまり、ジロジロ見ていると、『親衛隊』の連中に拉致られて、コンクリ詰めにされるぞ」


「……親衛隊というか、ただのヤクザだな」


 などとつぶやきつつ、


「ちなみに、オバセンって……ウチの担任?」


 と、質問を投げかけると、


「……なに、お前。もしかして、記憶喪失にでもなってんの?」


「ああ、今朝、頭を打ってな。担任と後ろの席のヤツに関する記憶だけ、スッポリ抜けちまって」


「また、えらくピンポイントな記憶喪失だな」


「人間二人分の記憶を失った……そのかわり、2~3日分の『未来の記憶』を手に入れた」


「えげつない『わらしべ長者』だな……『エビでタイ』どころの騒ぎじゃない」


 などと話していると、そこで、

 ガラガラっと、教室のドアが開いて、


「はいはいはい、みんな、席に着こーね! みんなのオバセンがきたから、席につこーね」


 と、出席簿を片手に元気よく入ってくる中年のおばさん先生。

 『小場(おば) 里子(さとこ)』。

 43歳、既婚。

 『アラフォーのおばさま』にしては、

 なかなか、引き締まったボディをしている体育会系の女教師。

 ラ〇ュタのド〇ラを、ほんのり若くしてギュっと絞った感じ。


 彼女の元気のいい声に従って、

 『特に不真面目でもない生徒たち』は、

 いそいそと自分の席に戻っていく。


「はい、全員、席についたかなー……って、あれ? 茶柱さんは……」


 茶柱の姿がないことに気づいた小場は、


「まさか……」


 と、つぶやきながら、

 身を乗り出して、教室の後方を確認する。


「……また挑戦的なマネをして……」


 呆れ交じりにそうつぶやきながら、

 小場は、スタスタと速足で、

 茶柱の近くまで歩いていくと、


 眠っている茶柱の額に、


「茶柱さん、起きなさい」


 パチーンッと、景気のいいデコピンをかます。


「いっったいにゃぁああ!」


 飛び起きた茶柱は、


「もっのすごい体罰を受けたにゃぁああああ! これは、即訴訟モノにゃぁああ!」


「好きにしていいから、さっさと席につきなさい」


 そこから先、一分ほど、

 茶柱はゴネ散らかしたが、

 小場は、そんな茶柱の猛攻を、

 なかなか『あざやか』にいなしてみせた。


 その様子を受けて、

 センは、


(アゲモは『極端な覚悟』で茶柱を黙らせたが、小場は、『年の功』で黙らせたって感じだな……)


 『ちゃんとした教師』として、丁寧に積んできた時間。

 その成熟した手管で、茶柱を黙らせた小場。


 アゲモほどの『極端さ』は感じないが、

 小場もなかなか『教師としての覚悟』が決まっている。


 ――と、センは、彼女に対して、そんな印象を覚えた。



(アゲモと蓮手……この二人以外にも、何か変化はあるか……)



 センは、注意深く、周囲を観察して、

 『前回との違い』をチェックしていく。



「――はい、じゃあ、さっそく、朝のホームルームをはじめるわよ」



 小場は、クラス全体を見渡しつつ、


「まずは、今度の『主体性遠足』について」


 滞りなく、

 話は前に進んでいく。


 途中で、紅院が、『区別』に関する異議を呈し、

 それに対して、小場が、またもや、

 年の功でいなしていく。



(……人が違うから、当然、言い回しに若干の違いが生じる……というだけで、内容に変化はない……流れは一緒だ)



「それでは、さっそく、発表するから、ちゃんと聞いてメモをとってね。まず、紅院さん達の班から」

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