35話 平下壱番さん。

 35話 平下壱番さん。


「俺たちにとってのゴールは、世界の終わりを阻止すること」


「元凶がいなくなったのであれば、もう、同じことは起こらないのでは?」


「元凶がいなくなったのであれば、確かにそうだろう。しかし、『入れ替わった』だけで、『いなくなった』わけではない……とすれば、おそらく、また、同じことが起こる。『見えない剣の翼を世界中に展開させる』……これを防ぐ方法は、『使い手を殺すこと』だけだが、鬱陶しいことに、『使い手』は現在行方不明。完全に消えてなくなってくれているのであれば問題ないが……どこかに雲隠れしているだけなら大問題」


「……確かに、おっしゃる通りです」


「正直、だいぶ不利なゲームだ……ルールがあいまいで、難易度がマストダイすぎる……バタフライエフェクトを起こさないように行動すべきか、それとも、大胆な変革を求めた方がいいのか……まだ、何も見えてねぇ」


「私は……」


「ん?」


「陛下の指示に従います」


 カズナは、まっすぐな目で、センを見つめ、


「陛下が望む全てを叶えます。全身全霊の忠義を尽くし、『王の剣』を全うすることを誓います」


「……うん、えっとね……まず、俺の名前は『閃』ね。『平下』じゃないんだよ。一級の人間からすれば、俺ごときの名前を覚えるのは難しいかもしれんが、しかし、今は、共闘関係にあるんだから、名前ぐらいは憶えてもらいたいね。……あ、それとも、もしかして、あれかな? 『平凡以下』を略したあだ名なのかな? 俺を表す言葉としては『正式に正解だ』と言わざるをえないけど、しかし、ちょっと傷つくからやめようか」


「陛下は王(おう)に対する尊称(そんしょう)です」


「なるほど、翁(おう)に対する損傷(そんしょう)ね。って、誰が『傷だらけのジジイ』じゃい! どつきまわしたろか! ――なんてねー、たっはー(笑)」


「……逃げられませんよ、陛下。すべての命の希望になると宣言したのは、あなた自身です」


「忘れたね! てか、そんな事は言ってないね! 証拠あるんですかー! ないなら、言いがかりですぅ!」


「……物的証拠はありませんが、心には刻まれております。私は陛下の言葉を忘れない。今後、何があろうと、あの時の言葉を忘れることだけはありえません」


「いや……あの、勘違いなんだよ……『勘違いしないでよねっ』じゃない方の勘違いなんですよ。わかりますか、カズナさん……あの時の俺は、テンションが上がっていただけなんですよ。つまり、本音ではないんですよ。つい雰囲気にのまれて、大きいことを言っちゃっただけなんです。わかりますね?」


「私と陛下が初めて会った日に、トコが言っていた言葉を覚えていますか?」


 『極限状態で勇気を叫べる者こそ本物』


「……極限状態を知った今、私も、心から、そう思います。あなたは、指導者となるべき存在。本物の光。命の王になるべくして生まれた人類の代表」


「……」


「改めて宣言します。これより先、私は、永遠に陛下の剣。この命、この心、この体、すべてを、陛下にささげます。あなただけが私の王。あなただけが、私の希望。あなただけが私の全て」

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