19話 唖然、茫然。

 19話 唖然、茫然。




「ふんばらだっしゃぁあああああっっ!!」




 物理法則の全てを駆使して、

 地球という鈍器を、

 ウムルの顔面に叩き込む。

 ようするにはいつもの投げ技。

 相手の力と体重と、星の重力を利用するカウンター。


 ぶっちゃけ、

 『自身の攻撃力』がゼロに近い現状では、

 これ以外に手段がない。


 けれど、ウムルは、


「くく……何をされるかわかっていれば……かつ、敵の手が一つしかないと判明しているのであれば――」


 投げられている途中、

 ほんのわずかな、コンマ数秒の中で、

 ニタリと笑って、


「――さすがに対処は可能」


 センに、そう声をかけた。


 コンマ数秒という短い時間の中で、

 しかし、センは、ウムルのセリフを、

 一字一句、聞き逃さなかった。

 もっと言えば、酷くゆっくり喋っているようにも思えた。


 クンッ、

 と、体軸をズラされる。

 魔力とオーラで物理に干渉。


 軌道をわずかに逸らしてみせれば、

 センの望む未来は死滅する。


 トンッ……


 と、静かな音だけが虚しく響く。

 一言で言えば、ウムルは、足から着地した。

 それも、衝撃を極限まで削った上で。



「途中で、瞬間移動を使い、貴様の腕の中から消えることも可能だったが……こっちの方が、より絶望出来るだろう?」



「……」


「カウンターや投げ技しかない相手に後れを取るほど、私は『程度の低い神』ではない。先ほど、23万年ほど投げ続ければ私を殺せる……と言ったが、しかし、それは『同じダメージを与え続けるコトができたら』の話。実際のところ、貴様は、二度と、投げ技で私にダメージを与えることはできない」


「……」


 センは、必死になって頭をまわす。

 『考えろ、考えろ』と、必死になって打開策を求める。


 そんなセンの様子を見て、

 ウムルは、


「……凄まじい熱気……この状況下において、死を全く恐れていない……いや、恐れていないのではなく『そのキャパシティがない』と表現した方が妥当かな。貴様の頭は、今、『私を倒すことだけ』でパンパンになっている。一言で言えば『没頭』している。そこまで、一から十まで『絶望との対話』のみに没頭できる者は、武神の中でも、そうそういないだろう」


 などと、評価をしている間に、

 センは、プランを確定させる。


 正解かどうかは知らないが、

 とにかく、現状、それしかないので、


「茶柱! お前のメギドを剣にして、俺に貸せ! 衝撃や打撃じゃ厳しいから、斬撃で打開を……聞いてんのか、おい!」


 あまりにも反応がないので、

 どうしたのかと思い、

 バっと、振り返ると、


「……」


 茶柱は、口を開けて呆けていた。


「おい、茶柱! なに、フリーズしてんだ! こんな時に、どういうボケ――」


 と、文句を叫ぶセンに、

 茶柱は、


「……どうして……」


 純粋な困惑をあらわにする。

 そこにボケの要素は一つもなかった。


 ただ、ただ、まっすぐに戸惑っているばかり。


「なんで? ……同じS級でしょ? どうして、ロイガーとここまで差があるの」

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