51話 言い続ければ、夢は叶う。


 51話 言い続ければ、夢は叶う。



「――はっ、夢か……」



「それ、目覚めるたびに言うつもりですか?」


 ホテルで目覚めたセンに、

 付き人のカズナが、呆れ口調でそう声をかける。


 センは、ゆっくりと体をおこしながら、


「……『口に出し続ければ、夢は叶う』ってよく言うだろ? あのノリだよ」


「いや、それは、意味が違うかと」


「わかってるよ。ほんのりボケただけだ」


 どうでもいい事を口にしながら、

 センはベッドから起きる。


「一応、聞くけど……今日は20日だよな?」


「はい。運命の日です」


(……結局のところ……人類全滅『後』の準備は、カズナのおかげで、それなりに整ったものの……『人類全滅を阻止するための準備』は何もできなかったな……)


 グっと歯噛みして、


(……できれば、『すでに蓮手は死んでいるので、人類全滅は最初から回避されていましたエンド』で行ってくれ……頼む……)


 願いながら、

 センは、学校にいくための準備をはじめた。



 ★



 ガラガラっと、教室のドアが開いて、


「はいはいはい、みんな、席に着こーね! みんなのオバセンがきたから、席につこーね」


 と、出席簿を片手に元気よく入ってくるオバン先生。


「はい、全員、席についたかなー。じゃあ、まずは、今日の防災訓練について、簡単に説明しておくねー」


 『前回と特に変化のない説明』が続く。

 ただ、前回と違い、センは、

 マニュアルを隅から隅まで読みつくしていく。


(ここに何かヒントが隠されている……という可能性も、ゼロでは……いや、ゼロだろうけど……でも……)


 何もせずにはいられなかった。


 『何かを背負っている人間』には、

 無意味と分かっていても、

 動かざるをえない時がある。



 と、そこで、

 オバセンの携帯のアラームが鳴った。

 オバセンは、サっと時間を確認してから、


「全員、窓から離れて、こちらの壁際にくるように。急いで。ダラダラしないで」


 その指示に従い、

 全員が、入り口側の壁付近に寄る。


 その数秒後、

 ガシャーンっと、ガラスの割れる音がクラス内に響き渡った。


(……『前回との違い』はないな……たぶん、同じ三人だ……絶対とは言えないが……)


 『興味がない相手の事』まで詳細に覚えておける能力は有していない。

 そのため、いま飛び込んできた中東ゲリラ風の三人が、

 全員、前回と確実に同じだとは言い切れない。




「紅院美麗、薬宮トコ、黒木愛美、茶柱罪華……以上の四名は、私と一緒にきてもらう」


「ふざけるにゃぁ! ツミカさんはテロには屈しないにゃぁ!」




 例のクソ鬱陶しい寸劇が終わり、

 窓ガラスの掃除タイムになったところで、


 放送用のスピーカーから、

 ブブブ……

 と、妙な音がして、

 その後、



『……仮面のヒーロー【ノゾ=キマ】に告ぐ。今回、時空ヶ丘学園に忍び込んだテロリストの数は総勢200名。彼らの装備品は大半がモデルガンだが、数名、本物の銃を所持している。制限時間内にテロリストを殲滅できなければ、なんの罪もない時空ヶ丘学園の生徒が最大で10名死ぬ。これは脅しでもハッタリでもない。君が行動を起こさなければ、30分後、最初の犠牲者が出る。もう一度言う。これは脅しではない』



 だいぶイカれた内容の放送だというのに、

 周囲の人間は、その放送に一切反応していない。


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