50話 大丈夫だ、問題ない。

 50話 大丈夫だ、問題ない。


 ――瞬間移動を使い、

 『学校で待機している黒木』の元に戻ってきたセンは、

 開口一番、頭を抱えながら、


「ものごっつ、ウザいぃい!」


 と、フラストレーションを爆発させる。


 そんなセンに、

 黒木は、


「……ずいぶんとボロボロのようですが……大丈夫ですか?」


(……はっ……この程度、前に比べりゃ、全然マシだから、まったく問題ねぇよ……)


 心の中で吐き捨ててから、

 深呼吸で魂を落ち着かせ、


「俺の状態なんざ、どうでもいい。気に留(と)めるな」


 そう言い切ってから、


「それよりも、ここから先は、アイテム回収の時間だ。気合を入れて――」


 と、宣言しようとしたところで、


「……うっ……」


 センはヒザから崩れ落ちる。


「えっ、ど、どうしました?!」


(……こ、これは……魔力系のマヒだな……今回、『前回は回避したワナ』に何度かあたった……おそらく、その中に、遅効性の神経毒が混じっていた……)


 自分自身に起きた事を冷静に分析しつつ、


(ウムルとの闘いで、限界近くまで体力を消耗している……図虚空の精神負荷を倍プッシュでかければ、どうにか、ギリギリ活動することも可能だろうが……明日は、鬼門の『避難訓練』の日……今日の探索で体力を使い切るのは愚策に思える……が……)


 そこで、センは、

 魂魄に気合をぶちこんで、


「問題ない、ただの寝不足だ……さあ……アイテムを探しに行くぞ……」


 アイテム探索を続けようとする。

 根性がありすぎる人間によくある、

 『境界線を見失う』という現象。


 だからこそ見えてくる世界もあるが、

 だからこそ失ってしまう何かもなくはない。


(……前回は、どうにか、蓮手を殺せたが……おそろしくギリギリだった……俺が負けたら、世界がマジで終わる……『絶対に勝てる』と言えるだけの下地が欲しい……)


 だから、センは、貪欲に『強化アイテム』を求める。

 それに、


(最悪、明日、また、人類が全滅した時のために……あのカギと同じ効果を持つアイテムを見つけておきたい……K5が全滅した後だと、携帯ドラゴンがないからアイテム探索ができねぇ……)


 様々な事情が重なっているため、

 センも、引くわけにはいかなかった。


 ――しかし、


「くぁ……」


 視界がグルグルとまわり、

 脳が溶けていくような感覚に襲われる。


(どんだけ強力なマヒ……まさか、マヒだけじゃないのか……)


 正解だった。

 今回の『終焉の神呪』に込められていたのは、

 『紅院に対するいやがらせ』ではなく、

 『センに対するいやがらせ』だった。


(マヒ、眠り、筋弛緩……片頭痛に眩暈(めまい)に自律神経失調も……こ、これは……俺に対する、明確で粘質な『いやがらせ』とみて間違いねぇ……『いやがらせ』をされたという事実がある以上……『首魁(しゅかい)』は……普通に、まだいる……蓮手か、アゲモか、それとも、それ以外か……誰かは分からんが、確実に……誰か……つまり……寝てるわけには……いか――)


 必死に耐えようとしたが、



「……くそっ――」



 結局のところ、

 センは気を失ってしまった。


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