49話 人をイライラさせるのがうまいやつら。


 49話 人をイライラさせるのがうまいやつら。


「――単純な話だよ、紅院美麗」


 そう言いながら、ツァールは、

 右手をビキビキと変形させていく。


「貴様は、『人の社会』においてはカースト最高位の支配者……だが、私の視点では、土の中で卵を産み続ける『女王アリ』と大差ない。こちらの視点では、『他のアリよりは多少大きい』というだけ。つまりは踏みつぶせば殺せる程度の虫ケラに過ぎない」


 そう言いながら、

 そのヤバそうな右手を、紅院の胸部にブチ刺そうとした、

 そのタイミングで、



 ギチリ……ッ……



 と、次元の裂ける音が響いた。

 音の発生源は、ツァールの足元。


「ばっ、バカな……干渉された……ありえな――」


 最後まで口にすることはできなかった。

 セリフが完結する一瞬前に、

 次元の傷口から、

 仮面をかぶった『まあまあボロボロの閃光』が飛び出して、




「――深淵閃風(しんえんせんぷう)――」




 登場すると同時、

 閃光は、

 美しい水面蹴りで、

 ツァールの足元をさらって、

 そのまま、


「魂魄一閃」


 サクっと、ツァールを瞬殺。


 結果、前回と同じように、



「死――神格の私が――脆弱な人間の一撃で――死っ――そんなバカな――」



 不可思議を糧にした無様をさらし、

 最終的には、




『――『終焉の呪縛』発動――』




 特殊な呪いを発動させる。


 その呪いを、


「解呪一閃」


 切り裂いていく閃光。


 ――ただ、


(……完全な切断は無理か……っ)


 呪縛の一部が残ってしまう。


 けれど、


(まあ、別に問題はねぇ……むしろ、そのまま膨らませて、ひきずりだしてやる)



 センは、呪いを膨張させて、

 タイムラグを殺し、

 奥にいる『イグ』を引きずり出す。



「――えっ……なっ……えぇ?!」



 わけが分からず困惑しているイグに、

 センは、


「――純正一閃――」


 サクっと必殺技をかましていく。




「――っっっ!!! ……あっ……あぉあ……」




 魂魄を一刀両断されたイグは、

 バタリと膝から崩れ落ち、


「……い、一撃だと……バカな……私は……『S級のGOO』だぞ……私を……一撃……そんな……そんな、アホな……」


「うっせぇ、ぼけぇ」


 ダルそうにそう言いながら、

 センはイグの頭を掴んで、


「俺の手で開けたのに、わざわざ、紅院を引きずり込みやがって……まったく、人をイライラさせるのがうまいやつらだ……」


 恨み言を吐きながら、

 ガツンと地面にたたきつける。


 グシャリとつぶれて、

 あっさりと完全に死に絶えたイグ。


 それと同時、

 空間が消滅し、

 センと紅院は、現実世界へと戻った。


 場所は、紅院家の庭。


 センは、完全に脅威が去ったのを確認すると、

 紅院に向かって、


「お前を助けたんじゃなく、ツァールを殺しただけだから! 俺をイラつかせたあのバカに制裁を加えただけだから! 勘違いしないように! いや、ほんと、マジで! ツンデレの方じゃないから! 『勘違いしないでよねっ』じゃない『ガチのヤツ』だから! 頼むから勘違いしないで! この通り!」


 と、深く頭を下げてから、

 センは、


「じゃあ、ほんとうに、頼んだぞ」


 最後にそう言い残し、

 瞬間移動で、その場をあとにした。

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